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森孝くんと結しゃんの話11
教室の中は、朝からメチャクチャになっていた。
机も椅子も、どれが誰のか分からないくらい乱れていて、棚の上に無造作に積み重なっていたみんなの教科書の山が雪崩を起こしている。
そもそも勉強する気のないやつが多すぎなんだよ、うちのクラスは。……もちろん俺も含めて。
うちの学校のクラス分けは、学力テストと面接、中学の内申書を元に決めているらしい。
A組が一番成績が良くて、俺のいるD組は一番下。頭の出来 が悪いか、素行の悪いやつらが集まっている。
「俺、C組行ってくるわ」
ガスストーブの前で暖をとり始めたまこっちと太陽に声をかけ、俺は隣のクラスに向かった。
C組には、ゲームでいつもパーティを組んでるやつらがいるからだ。そろそろ復帰しないとブチ切れられる。
あ、先に便所、行っとこう。
廊下で向きを変えると、胸にドンと衝撃があった。顎の下で艶のある黒髪が揺れている。
「ごめんね、痛くなかった?」
言った後に、相手が男だと気づいた。学ランじゃなくジャージを着てたから気づくのが遅れた。優しく声をかけて損した気分になる。
「チッ、男かよ」
前を見てなかった自分のことは棚にあげ、つい舌打ちをする。
「す、すみません……っ」
紺ジャージは体を縮めて謝ると、リスみたいにすばしっこく逃げていった。
その瞬間、ほのかなグレープフルーツの香りが、風と一緒に鼻をかすめていく。鼻をすんとして匂いを嗅いでみても、もう何も残っていなかった。
だけど、嗅いだことのある匂いだった。結しゃんと同じ匂い。
結しゃんのことを思い出し、テンションが一気に下がった。紺ジャージのやつに、舌打ちまでしたのは悪かったかな。
外見は内面の一番外側だと、どうせ受け売りのくせにまこっちがドヤ顔で言っていた。結しゃんはきっと、俺の見た目から、内面を見やぶっていたんだろう。
文句言われるのは分かっていたものの、ゲームする気にも教室に戻る気にもなれず、そのままフケることにした。
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