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森孝くんと結しゃんの話15

 考えてみれば、女装してるなんて強請(ゆす)るのには格好のネタだ。そんなタチの悪い趣味、俺にはないけど。  涙で濡れた結しゃんの手を、上から握りしめる。 「言いふらす気なんて、全然ないよ。そんなことしたって、俺になんの得もないし」 「うっ……ひっく……でも……っ」  結しゃんは言葉だけじゃ信用できないようで、さらに手の甲に涙を落とした。  俺は結しゃんの手を口元に引き寄せ、お姫様にするみたいに唇をあてた。誰かに見られでもしたら相手を抹殺するしかないが、幸いここには結しゃんと俺しかいない。  ちらりと結しゃんの顔をうかがうと、頑なだった結しゃんの表情がほんの少しだけやわらいでいる。もう一押しか。 「本当に言わない。約束する」  再び手の甲に唇をあてると、結しゃんの頭が縦に小さく動いた。 「せっかく可愛い格好してるんだから、顔見せて」  ようやく顔を上げてくれた結しゃんの目の端にたまった涙を舌ですくいとる。 「っ、ひゃっ……」 「ふっ、びっくりしすぎ。こっち、おいで?」  手を開くと、結しゃんはおずおずと上半身をかたむけてきた。ひょいっと持ち上げ、横向きで足の間に座らせる。  結しゃんからは、ほのかなグレープフルーツの匂いがした。つけて時間が経ったからか薄らいでいるが、抱きしめて嗅ぐのにはちょうどいい。 「結しゃん、いい匂い……これって香水?」 「っ、ふふ、くすぐったい……っ」  首筋に鼻を寄せると、結しゃんは体をよじって後ろを向いた。恥ずかしそうにぱっと首を手で押さえる。 「うん、グレープフルーツの香水だよ。エッセンシャルオイルとアルコールだけで作られたやつなんだ」  イベントで会った時と、学校にいる時の中間の甘さの声だった。もっと、とろとろに甘えさせたくなる。ゲームの中で想像していた声が聞きたかった。  俺は、結しゃんの滑らかな太ももをなでた。 「……っ、だめっ」  驚いて閉じた結しゃんの太ももの隙間から、無理やり手を滑り込ませる。うなじを舌でなぞりながら、女とは違う薄い脂肪をやわやわと揉んだ。刺激に弱いのか、結しゃんはそれだけで喘ぎ声になる寸前の吐息をはいている。  俺はスカートを押し上げる突起には気づかないことにし、薄い耳たぶをかじった。 「あっ……もりしゃっ、お耳、いや……ぁっ」  結しゃんの口から、想像していた以上に甘い声が漏れた。

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