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高山先生と太陽くんの話1
高山信太と宮地太陽の話。
―太陽―
ほわん、ほわん、ほわん。
効きすぎたストーブのせいで頬があっつい。
五時間目の生物の時間。お昼ご飯を食べたあとで眠いのか、誠はチャイムが鳴る前から机につっぷして寝ていた。すぴすぴと、変な寝息が聞こえてくる。
その姿を見た高山先生は、吐きかけたため息を飲み込むと、教室を見回した。
「期末考査の最高点は、学年・クラスともに95点。この時間の間に間違った箇所を埋めて、ノートと一緒に提出すること。特にテストの点数が悪かった人は、今の時間だけでも集中して。提出物は成績に大きく反映するから、今からでも、分からないところがあったら遠慮なく聞いてください」
〝提出するノートの準備やテスト直しを確実にすること〟と念を押して、先生は暇そうな素振りでストーブの脇に立った。この前、みんなに勧めていた残念な生き物図鑑をペラペラと眺めている。
おれは返ってきた答案用紙に目を落とした。いつもは90点以上取っているのに、今回は赤点ギリギリの40点。
点数の横に、先生オリジナルの苔のキャラクターが書かれていた。カビの生えたメタモンみたいなそいつが、涙を浮かべてこっちを見ている。
『ケアレスミスなんて、宮地らしくないね』
と、吹き出し付きで。
顔を上げると、心配そうな顔の先生と目が合った。
わざと悪い点数をとった罪悪感で胸の奥がずきんと痛む。
やっぱり、先生に勉強を教えてもらいたいなんて理由で、わざと悪い点数なんて取らなきゃよかった。
授業の残り時間が少なくなると、誠がむくりと起き上がった。おれのほうを振り返り、空席を二つはさんで声をかけてくる。先生を気にしてか一応小声だ。
「宮地、最後の問題の答え、なに?」
最後のサービス問題は、最近発見された苔の名前だった。自主学習の時に何度もテストに出すと言っていたので、授業にさえ出ていれば分かる問題。
見回りをしていた先生が、ゆっくり近づいてくる。いつも白衣を着てることもあって、しろくまみたいだ。
のんびりした、温かい声が降ってくる。
「やーっと、起きた。宮地、あまり坂本のこと、甘やかさないように。ノートいつも見せてあげてるでしょ」
テスト範囲のルーズリーフをクリップでまとめていた誠が、わかりやすくビクッとした。
「やべ、バレてる」
「宮地のノートの取り方、独特だからね。整理されてて、見やすい。お手本にしたいくらい」
ほめられて、むず痒い気持ちになる。今までたくさんの先生に出会ったけど、勉強のことでほめてくれるのは高山先生ぐらいだった。
それに、先生の黒板はまとめなくったって元々見やすい。ノートを見返した時に分かりやすいよう、工夫して黒板を書いてくれてるのがわかる。
〝このくらい分かって、当たり前〟と、ほかの先生ならすっとばしそうなことでも、イチから丁寧に教えてくれる。
赤点のオンパレードの森孝でさえ、生物の点数はわりと良かったはずだ。
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