教卓に戻る先生の後ろ姿を眺めがら、一学期の終わりのことを思い出した。 　梅雨が明けてすぐのテストが終わり、おれは返却された答案用紙を見て愕然とした。 　す、数学のテスト、4点？ 　元々数学は苦手だったけど、まさか一桁――それも、片手で足りる点数を取るなんて。 　横から覗き込んできた森孝が、たいして点数も変わらないくせに噴き出した。 「うっわ、俺も赤取ったけど、下には下がいるもんだな。笑う」 「え、宮地の点数って、そんなにヤバいが？」 　答案用紙を覗き込んだ誠の目が、不自然に斜め上を向いた。 「えーっと、今日、バイトあったっけかな〜……」 　歌の下手な小鳥みたいに、唇だけがピヨピヨ動いている。 「誤魔化すみたいに吹いてる口笛、全然音鳴ってないからね！」 「いや、だって、どんな反応すればいいかわかんないじゃん。4点取るの、逆に器用すぎるろ。……なぁ、宮地」 　誠はおそるおそる、両手の人差し指を一本ずつ、顔の前で立てた。 「いち足すいちは？」 「にーって、そんくらいわかるてが！」 「いや、一応ね。あんまりにもやべぇから一応。……で、どうするが？」 　勉強教えて、と言いたいところだったけど、やめた。誠は少し前まで調子が悪そうだったから、負担をかけるのは気が引ける。 「う〜ん……とりあえず、教科担任の樋口先生に聞いてみよっかな。森孝はどうする？」 「お前が分かるようになったら、教えて。俺、樋口、スカしてて嫌い」 「丸投げか！　わかったよ、教務室行ってくる」 　樋口先生は、確か三年生の担任だったはずだ。教務室じゃなく、進路指導室にいるかもしれない。 　進路指導室の前でうろうろしていると、 「扉の前で立たれると邪魔なんだけど」 　尖ったつららよりも冷たーい声がした。 　不機嫌そうな顔の樋口先生が立っている。不機嫌そうなというより、完全に不機嫌だ。いつも眉間に寄ってるしわが五割増。 「ひっ、あの、勉――！」 　樋口先生の視線が上履きのラインに落ちた。色を見て、さらに眉間にしわが寄る。 「お前一年だろ。ここ進路指導室。教務室は斜め前」 「進路指導じゃなくて、勉強を――」 「俺、急ぎなの。マジでどいて」 　言い切る前に、ピシャリと扉が閉まった。