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高山先生と太陽くんの話3
森孝も嫌いだって言ってたけど、おれも樋口先生ってキツくて苦手なんだよなぁ。授業中もおれらのほう全然見ないし。もう樋口って呼んでやろ、樋口って。
扉を叩く勇気もなく教室へ戻ろうとすると、どん、と誰かにぶつかった。
チョークで汚れた白衣に、ワイシャツと、スラックス姿。生物の高山先生だ。
ぶつかったいきおいで、先生の持っていた教材がばさばさと廊下に散らばる。
「おっと、進路指導室に何か用?」
散らばった教材を拾い集めながら、先生が問いかけてくる。
「用あったけど、なくなっちゃいました。って、おれも拾うの手伝います!」
落としたのは俺のせいだし、何より4点の答案用紙が教材の下敷きになっている。先生に見られる前に回収したい。見られるのは樋口と担任だけで十分だ。
だけど答案用紙に先に手が届いたのは、先生のほうだった。
「……これ、宮地のだよね?」
「そ、そうです。返して下さい」
先生は時間が止まったみたいに、答案用紙を見つめたまま固まっている。なんの反応もしてくれない先生に耐えきれず、おれはへらっと笑った。
「4点って、一周回って笑えるよね。誠に足算できるか心配されちゃった」
高山先生はおれに答案用紙を返すと、気まずそうな、困ったような顔で問いかけてきた。
「宮地って……数学、苦手なの? 生物はそこまで悪くないよね」
「苦手じゃなかったら、こんな点数取ってないです。先生、さっきから質問が雑すぎますよ。4点取るやつが数学好きなわけないじゃん」
相当うんざりした顔をしていたのか、先生は頭をかきながら苦笑いした。
「そうか、そうだよね。なんか僕も焦っちゃって。わざと0点で出す子はいるけど、本気で書いてこれは……」
「あらためて言われるとへこむから、やめてください」
「ごめんね」
高山先生は進路指導室の窓に目をやってから、こほんこほんと誤魔化すように咳をした。
「樋口先生、とっつきにくいけど悪い先生じゃないよ。分からないところがあったら、暇をみて聞いてみるといい。うちのクラスの子達、樋口先生のファンでよく聞きに行ってるみたいだよ」
いくらファンがいるからって、良い先生とは限らない。樋口はいつも上から目線で、高圧的だ。勉強の出来ない生徒はゴミ屑くらいにしか思ってないに違いない。
お前に勉強を教えても意味がない、と言った前の高校の先生と同じように。
「ううん、やっぱ、誠に聞きます」
「そう?」
「頼めば教えてくれると思うし。……じゃあ」
教室に戻ろうと階段をのぼりはじめたところで、高山先生に呼び止められた。
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