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高山先生と太陽くんの話4

 高山先生は人がいないのを確認してから、声をひそめた。 「宮地って、別の高校から転入してきたんだよね」 「そうですけど……なんで、知ってるんですか? 先生たちの情報網?」  別に隠してるわけじゃないけど、他の高校から編入したことは誠や森孝にも言ってなかった。年が違うからって変に気を使われても気まずいし。 「ううん、他の学年のことまでは聞かないな。うちのクラスの子が――その子は二年次から編入してきた子なんだけど、前の高校で宮地と同級生だったって」  先生は進路指導室のほうに目をやってから、ゆっくりとおれに視線を戻した。 「今の授業の範囲まで追いついたら、その後はついて行けそう?」  今さら追いつくなんてこと、できるのかな。中学校の数学だってできるかどうか怪しい。だけど、卒業できなかったら入った意味がないし、高校に入り直すことを喜んでくれた母ちゃんにも悪い。 「ついて行けるかわかんないけど、がんばりたいです」  じゃあ、と言って先生は、白衣のポケットから取り出したペンギンのメモ用紙に何か書き込んでいる。曜日と時間だ。 「はい。これ、僕の空き時間。生物部が休みの時なら、放課後、勉強教えられるよ。宮地の都合の良い日だけでいいから、理科準備室までおいで」 「え、いいんですか?」  おれの間抜けな声が廊下に響いて、帰ろうとしていた生徒が振り返った。 「しーずーかに。樋口先生の手前、あまりおおっぴらには教えられないの」 「ご、ごめんなさい。……あの、ありがとうございます」 「ちゃんと、おいでね」 「はい」  本当にいいのかな、と思って先生を見ると、嘘じゃないとわかる目で微笑んでくれた。

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