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高山先生と太陽くんの話9

―信太― 「俺のケーキは?」  宮地が帰ってすぐ、樋口がうらめしそうな顔で廊下側の扉からニョキッと顔を出した。  遠慮なく理科準備室に入ってくると、シンクに片付けてある皿を見て、俺をじとっと睨んでくる。 「ケーキ余ってるから食べにこいって、わざわざ連絡よこしたくせに。なに生徒餌付けしてんだよ」 「ごめんごめん。宮地の反応が可愛いくて、ついあげちゃった」 「あげちゃった、じゃねぇーよ。せっかく甘いもん食べて、ストレス発散しようと思ったのに。つーかなんなの、俺のツラじゃ甘いもん食べちゃいけないっての?」 「嘘も方便ってやつだよ。ああ言ったほうが、遠慮せずに食べやすいでしょ」  ピグモンのマグカップを洗い、残っていたコーヒーを入れて樋口に差し出した。  名字に絡めたあだ名で呼ばれるのを嫌がってたのに、昔受け持ちだった生徒からもらったマグカップを律儀に使い続けている。悪いやつではないのだ。   「宮地のこと、悪かったな」  めずらしくも殊勝に、樋口が頭を下げた。高校時代から俺様だった樋口がめずらしく。本当にめずらしく。 「今年の三年次の編入生、特に問題のある生徒が多かったからね」 「人数の関係か、D組にまとめて放りやがって。さっきも親と連絡取れないからって、警察から連絡くるし」 「教師が忙しいからとか、余裕ないから仕方ないって言っちゃいけないけど、物理的に出来ないものは出来ないからねぇ」 「担任持ってる上に、自分の教科以外教える余裕があるお前に言われるの、一番むなしい。そんで、悔しい」 「どーどー。落ち着いて」 「俺は馬か。……よし、甘い物食ったら戻る」  樋口はそう言うと、俺のデスクの奥に隠してある大きなウルトラマンの缶から、チョコレートを取り出した。ピグモンって呼ばれるの嫌がってるけど、絶対、自分で寄せにいってるだろ。  コーヒーを飲み干した樋口は、進路指導室に戻っていった。

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