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たぶんストーカーじゃない1

清水善×坂本誠 ―誠―  クリスマスの翌日で、居酒屋のバイトは休みだった。  学校が終わり家の最寄駅で中尾と別れた後、俺はホームに戻って反対方面の電車に乗り直した。 〝次は――駅、――駅、お降りのお客様は、お足元に気をつけ、手で扉を開けてお降りください〟  中途半端な時間だからかホームにはあまり人がいなかった。改札を出て、駅前のコンビニに入る。何か差し入れを買おうと甘い物が置いてあるコーナーに来てから思った。善はどんな食べ物が好きなんだろう。  というか、電話で『クリスマスだから会いたかったね』と言われたものの、約束したわけでもないのに来るなんて、ストーカーみたいだ。  いや、もはや〝みたい〟というレベルじゃなく、ストーカーか?  手を伸ばしかけたままデザートコーナーで立ち尽くしていると、品出しをしていた店員がチラリと俺に視線を向けてきた。気にしすぎかもしれないけど、完全に不審者だと思われている気がする。客観的に見てみる。不審者だ。  いいや、とりあえず、ケーキを買ってから善に会うかどうか決めよう。会いたいから来ちゃったわけだし。  善の好みはわからないから、食べやすさを考えてカップ入りのティラミスとレアチーズケーキを買った。  駅の待合室に戻り、善の学校が終わるのを待つ。  八時間目まであるって聞いた時は衝撃だったけど、良い大学に進学したいなら普通なんだろうか。そんなに根をつめて勉強したら、俺の場合、逆にバカになる気しかしない。  善から聞いていた放課の時間が過ぎると、少しずつ駅の待合い室に翔嶺生が増えてきた。みんなノートや単語帳、参考書を手にしている。  椅子に座っていた俺と目が合った翔嶺生は、怯えた様子で俺から視線をそらした。  たまたまかな、なんて思いつつ、一人、二人、三人と続くと、いたたまれない気持ちになってくる。三和高校に通ってると麻痺するけど、俺だって別にガラが良いとは言えないもんなぁ。  悪あがきで学ランのボタンを一番上まで留めてみたが、まったく無意味だったみたいで、四人目にも目をそらされる。参考書を持った手が震えているのは、アルコール中毒の禁断症状だろうか。いや、たぶん違う。  居心地の悪さに負けて、俺は寒風が吹きすさぶホームに降りることにした。  善に連絡しないでよかった。俺と知り合いだって知られたら、善まで変な目で見られるかもしれない。このまま帰ろう。ケーキは父さんにでもあげればいいや。  ホームに降りて電車を待っていると、 「まこ?」  遠くからぽつりと俺を呼ぶ声がした。走り寄ってきた善は俺の手を握ると、心底嬉しそうに目を細める。  手ぇあったけぇなぁ。――じゃなくて、距離感がおかしいだろ。 「ちょ、ちょ、ちょ、待って。一旦離れよう?」  善から一歩離れるが、すぐに距離を詰められた。手は、逃さんとばかりにがっしり握られている。 「嬉しい、会いに来てくれたんだ。こんなに手が冷たくなるまで待っててくれたなんて……。連絡くれたら、学校に残らないでまっすぐ駅に来たのに」 〝え、清水くん、あのガラの悪い人と知り合いなの?〟なんて囁き声が聞こえてくる。忘れかかっていた居心地の悪さが光のスピードで戻ってきた。 「迷惑かもって思って帰ろうとしてたっけ、喜んでもらえるのはありがたいんだけどさ……て、手ぇ離して。周りの視線がすごく痛い」 「まこは俺と手、繋ぐの嫌?」  頭ひとつ分身長の高い善が、子犬のような目で俺を見てくる。若干会話が噛み合っていない。 「手ぇ繋ぎたくないわけじゃないよ。けど、俺はともかく、善は学校近いっけ、友達とか知り合いとか、駅にいっぱい居るろ? 男同士で手ぇ繋いでたら、変な目で見られる」  ここでようやく、善は辺りを見回した。 「ああ、大丈夫。友達は須藤くらいしかいないから」 「……それは、大丈夫……なのか?」 「うん、平気平気。特に興味もないし」  平然と言い放つ善に、何も言う言葉が見つからない。一切の曇りなき目に釈然としないまま丸め込まれた。

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