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たぶんストーカーじゃない2
到着した電車に乗り込むと、部活帰りの生徒もいるからか、来た時の三倍くらい混み合っていた。座席はすべてうまっていて、立ってる人も各扉に三、四人ずつくらいいる。
俺と善は、入ってきた扉脇のスペースにおさまった。
「そうだ。これ、忘れてた」
ケーキを買っていたことを思い出し、善にコンビニのビニール袋を差し出した。
「駅で一緒に食べようと思ってたんだけど、人多くなっちゃったっけ。家に帰ったら食べて」
「まこ……!」
善は感極まったように俺の名前を呼び、手を握ってきた。今度は翔嶺生だけじゃなく、他校の人にまでじろじろ見られる。遠慮のない視線だ。
「だ、だから、手」
「ごめん。でも、まこが俺のことを考えてくれたのが嬉しくて。食べてもいい?」
「え、ここで? だめだろ。人いっぱいいるし」
聞こえてるはずなのに、善はプラスチックのスプーンを取り出すと躊躇なくティラミスの蓋を開けた。
「いただきまーす!」
「……人の話、聞こう?」
食べる前の挨拶をするくらいなら、別の常識も大切にしてほしい。
「ねぇねぇ、まこ。あーんして、あーん。口開けるから」
「おい、本気で聞いてないな。マイペースさんか!」
自己中よりのな、自己中よりの。
いつまでも拒んでいるより食べさせたほうが早い。そのほうが周りに迷惑をかけない気がして、善からスプーンを受けとった。
あーんと待ち構えている善の口にティラミスを突っ込む。
車内の冷たい空気をよそに、善はものすごく幸せそうな顔でティラミスを頬張っていた。
頭が良すぎると、一周回ってバカになるんだろうか。一般常識はネジと一緒にどこかに飛んでいったに違いない。スペアでいいからはめてこい。
いつの間にか、俺の最寄駅に近づいていた。田んぼばかりだった景色に建物が少しずつ増えてくる。
(善の学校から最寄駅までは二駅しかないし、あまり話せなかったな)
少しだけ寂しい気持ちでいると、善にそっと手を握られる。車内がやっと落ち着いたからか、体に隠しながら、本当にそっとだった。
「今度来るときは、当日でいいから連絡ちょうだい」
「うん、連絡する。直前までさ、会いに行くかどうか悩んでて、連絡しそびれたんだ。いきなり来てごめん」
自分の気持ちだけで、善の都合、全然考えてなかった。善は首を横に振る。
「迷惑がったりしてないからね? 連絡もらえたら学校に残らないで直接駅にくるし、たくさん話せると思って。それに心の準備ができてないと、嬉しくて気持ちが抑えられなくなるの。鼻赤くしながら待ってる姿見たら、たまらん!って」
「ふはは、言い方。たまらんって、なんだよ」
「今も……俺のために会いに来てくれたんだって思うと、まこが可愛くて、仕方ない」
善は甘い声でそう言うと、繋いでいた手にキュウっと力を込めた。途端に甘酸っぱい気持ちになる。
「別に、善のためにだけじゃ、ないよ」
もごもごと口にした時、車体ががくんと揺れた。窓の外を流れる景色がゆるやかになっていく。名残惜しいけど、そろそろ手を離さなきゃいけない。
「もう着いちゃうね」
「夜、いつもの時間に電話する」
「……待ってる。勉強頑張って」
早く離さなきゃいけないと思いながら、ドアが開く直前まで手を繋いでいた。
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