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たぶんストーカーじゃない4

「可愛い……」  とろりと甘い声で言われて、心の中がこしょばったい。顔がぽぽぽっと熱くなってくる。 「顔見なくっても、喜んでるのわかるって、なんでだろうな」 「ふふ、落ちつける必要なんて全然なかったのに。ね、もっと声聞かせて?」 「やだよ。今敏感だっけ、いっぺん声出したら止まんなくなりそう。善の声だけ聞かせて」 「ずるぅい」  善は拗ねた子供みたいに言った。 「ずるいって……」 「ずるいずるいずるい」 「駄々っ子かよ! ……おいおいで、お願いします。今は恥ずかしすぎて無理」  そっと下を握りなおすと、先走りが竿をつたって根元のほうまで垂れていた。俺が触りはじめたのを察したのか、善の吐息もかすかに漏れはじめる。  汗で蒸れたアクリルの毛布をベッド下に蹴り落とし、スウェットとパンツをずり下げた。すっかり固くなった下半身を指で刺激する。 (やべっ、声、出そう)  スウェットの袖口で口元を押さえてみるが、あまり効果はなかった。生地と腕の隙間から荒くなった息がこぼれてくる。 「……っ、ふぅっ、ぁ、気持ちぃ、ぁっ、音、音ヤバい」 「濡れてて?」 「ん」 「ふふ、今日は我慢するから、今度聞かせて?」 「変態かよぉ……」  試しに音が出るように触ってみる。いつもと違う感覚に体がぞわぞわした。 (甘ったるい声、出そう)  押さえるだけじゃ意味ないと思い、スウェットを奥歯で噛んだ。くぐもった喘ぎ声が生地の中に吸い込まれていく。 「まこ、鼻息ふーふーして、可愛いね。興奮してる?」 「うるさ……っ、善だって……」 「俺は別に我慢してないもん。まこがエッチな声聞きたいって言うから、聞かせてるだけ」  飄々とした善の、かすれた声に耳が熱くなる。 「……っ、あっ、もうっ」  イくと言う間もなく、手のひらの中で下半身がはねた。脈動に合わせて精液がどろどろ吐き出されていく。  ――がたん。 「やべっ」  手から滑り落ちたスマートフォンがマットレスで跳ね、畳の上に落ちた。拾い上げてみるが、指で変なところを触ったのか通話が切れている。  ――ぴこん、ぴこん、ぴこん、ぴこん。  かけ直す前にティッシュで手を拭こうとすると、ラインが何度も鳴った。通知画面に、途切れ途切れのメッセージが表示されていく。 『ひどい  いきそびれた  いしゃりょうがわりに  おかず  ちょうだい  手とか』  既読したら呪われそうなメッセージだ。 『手って言ったって、もう拭いちゃったよ』  返信すると、すぐに既読がつく。 『え? 出したの送ってくれるつもりだったの?』  事後の写真が見たいんだと思っていたのは、俺の勘違いだったらしい。ただ単に手ってことかよ。自分の変態じみた発想が恥ずかしい。  墓穴を掘りたくないと思ってメッセージを送れないでいると、また何度もラインが鳴った。 『ふいたあとの  てのがぞうで  いいから  ちょうだい』 『一瞬正気に戻ったくせに』 『ぬれた  てぃっしゅ  にぎってたら  なおよし』 『なおよし、じゃねぇよ』 『お願い』  キラキラした目で手を合わせる、変なうさぎのスタンプが三連続で送られてくる。 (あー、もう)  スウェットを穿きなおし、ゴミ箱にほおったティッシュを拾い上げる。こんなん見て興奮すんのかなぁ。半分恥ずかしさ、半分呆れた気持ちで写真を送った。 ―END―

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