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根も葉もある噂2
とはいえ、まったく気にならないわけじゃなかった。学校に着いて自分の席に座り単語帳を開いたままで考える。
好奇心でも、確認して突き放すためでもなく、触れちゃいけないところに触れてしまわないように、本当のことが知りたい。
だって、大切な人だからこそ出来るだけ傷付けないようにしたいから。
お年寄りに躊躇なく席を譲ったりするまこが、教師を殴る想像はできなかった。正当防衛だと言って、しょっちゅう先輩をぶん殴ってた中尾じゃあるまいし。
「清水、青白い顔して、なんしたが? 腹壊した?」
いつもは〝ギリギリまで寝ていたいから〟と、一本後の電車で来る須藤が、俺の後ろの席にどかりと座った。
「お腹の調子心配してくれなくて大丈夫。痛いのは胃と頭だから」
何があったとも言えず、誤魔化した。須藤が体を抱いてぷるぷる震えだす。わざとらしい。
「胃も頭もって、なかなか重症じゃん」
「本気にしないでよ。別にどっちも大丈夫。それにしても今日は早いね」
須藤がうんざりした顔で言った。
「ばぁちゃんに、たまには清水を見習って早く学校に行けって家追い出された。清水が勉強しすぎてるから俺まで勉強させられるんだぞ。頭と胃どころか、歯と指の逆剥けまで痛くなりそう」
「八つ当たりもそこまで行くと清々しいね。須藤が漫画ばっか読んでるからでしょ。油断してると成績落ちるよ」
「うるひゃいっ、清水には負けても学年で一桁はキープしてるもん。それ以上は勉強したところで超えられない壁ってやつがあるだろ。無駄な努力はしない主義」
「潔 いんだか、アホなんだか……」
呆れて笑ってから、ふと無言になる。俺はさっきの出来事に意識が飛んでいた。
まこと幼馴染だという須藤に聞けば、昔のことがわかるかもしれない。だけど、デリケートなことを簡単に聞くわけにもいかないし。
さっきまでふざけていた須藤が、落胆したような声で言った。
「まさか、他クラのやつが言ってたこと、気にしてるが?」
須藤から、あの女の話が出るとは思っていなかった。
「須藤って、超能力使えるの? 意外と鋭いね」
「俺、今傷つけられてる? 清水のこと心配したつもりなんだけど、めっちゃ攻撃くらってない?」
「そんなつもりはなかった。ごめん。でもよくわかったね、噂話気にしてるって」
「あの女、やたら声がでかいから。さっきも廊下でギャーギャー騒いでたぞ。善くんが唆されるとか言って。冗談にしてもつまんなすぎる」
そんな話をしていると、勉強の邪魔だったらしく隣の席のやつに咳払いをされた。
須藤が声のトーンを落とす。
「どうしても気になるんなら、続きは放課後な。たいして面白い話じゃないぞ」
「わかった。ありがとう」
気にならないと言えたらかっこいいけど、俺は痩せ我慢できずにお礼を口にした。
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