49 / 72

根も葉もある噂2

 とはいえ、まったく気にならないわけじゃなかった。学校に着いて自分の席に座り単語帳を開いたままで考える。  好奇心でも、確認して突き放すためでもなく、触れちゃいけないところに触れてしまわないように、本当のことが知りたい。  だって、大切な人だからこそ出来るだけ傷付けないようにしたいから。  お年寄りに躊躇なく席を譲ったりするまこが、教師を殴る想像はできなかった。正当防衛だと言って、しょっちゅう先輩をぶん殴ってた中尾じゃあるまいし。 「清水、青白い顔して、なんしたが? 腹壊した?」  いつもは〝ギリギリまで寝ていたいから〟と、一本後の電車で来る須藤が、俺の後ろの席にどかりと座った。 「お腹の調子心配してくれなくて大丈夫。痛いのは胃と頭だから」  何があったとも言えず、誤魔化した。須藤が体を抱いてぷるぷる震えだす。わざとらしい。 「胃も頭もって、なかなか重症じゃん」 「本気にしないでよ。別にどっちも大丈夫。それにしても今日は早いね」  須藤がうんざりした顔で言った。 「ばぁちゃんに、たまには清水を見習って早く学校に行けって家追い出された。清水が勉強しすぎてるから俺まで勉強させられるんだぞ。頭と胃どころか、歯と指の逆剥けまで痛くなりそう」 「八つ当たりもそこまで行くと清々しいね。須藤が漫画ばっか読んでるからでしょ。油断してると成績落ちるよ」 「うるひゃいっ、清水には負けても学年で一桁はキープしてるもん。それ以上は勉強したところで超えられない壁ってやつがあるだろ。無駄な努力はしない主義」 「(いさぎい)いんだか、アホなんだか……」  呆れて笑ってから、ふと無言になる。俺はさっきの出来事に意識が飛んでいた。  まこと幼馴染だという須藤に聞けば、昔のことがわかるかもしれない。だけど、デリケートなことを簡単に聞くわけにもいかないし。  さっきまでふざけていた須藤が、落胆したような声で言った。 「まさか、他クラのやつが言ってたこと、気にしてるが?」  須藤から、あの女の話が出るとは思っていなかった。 「須藤って、超能力使えるの? 意外と鋭いね」 「俺、今傷つけられてる? 清水のこと心配したつもりなんだけど、めっちゃ攻撃くらってない?」 「そんなつもりはなかった。ごめん。でもよくわかったね、噂話気にしてるって」 「あの女、やたら声がでかいから。さっきも廊下でギャーギャー騒いでたぞ。善くんが唆されるとか言って。冗談にしてもつまんなすぎる」  そんな話をしていると、勉強の邪魔だったらしく隣の席のやつに咳払いをされた。  須藤が声のトーンを落とす。 「どうしても気になるんなら、続きは放課後な。たいして面白い話じゃないぞ」 「わかった。ありがとう」  気にならないと言えたらかっこいいけど、俺は痩せ我慢できずにお礼を口にした。

ともだちにシェアしよう!