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根も葉もある噂3

 教室だと勉強している人の邪魔になるので、須藤と二人でラウンジに移動した。  どう切り出そうかと思って、また悩んでしまう。  興味本位で訊いてると思われれば、まこを大事に思っているであろう須藤にも嫌な思いをさせる。せっかくできた友達なのに幻滅されるかもしれない。  緊張をほぐすためか、須藤がおどけた調子で言った。 「噂って、どこまで聞いたが? みんなで女の先生のスカート覗いたのに、ちゃっかり誠だけ見逃された話とか? ずるいよな、逃げるとか」  そんな話じゃないことは、須藤だってわかるだろうに。 「学校で何してんの。違うよ」 「違うの? じゃあ、後輩にサクッと彼女取られちゃった、悲惨な話とか?」 「まこ、彼女いたの? ……じゃなくて。ちょっと気になるけど、それでもない」  ジトっとした目で見ると、須藤は困ったみたいに肩をすくめた。 「だって、聞いたって面白くない話だもん。俺だって正直なところ、あの時の事はよく知らないんだよ。昔から一番近くで見てたつもりだったけど、一時期避けられてたこともあるし。……で、あの女から何聞いたが? 誠の知らないところで、余計なことまで言いたくない」 「小学生の頃、煙草吸ったりしてたとか、先生殴って停学になったりとか」 「それは、ほぼ合ってる。煙草とか、ぜんっぜん、隠してもなかったし。でもさ、そんな昔のこと知って清水はどうしたいが? 友達としてつるむなら、関係ないろ。今の誠見てみろよ。清水の目から見て、悪いやつか?」 「全然、悪くなんて見えないよ。真面目で誠実に見える。それに、昔あったことにこだわって、すべてを拒絶するつもりもない。……自分でもよくわからないけど、不用意な言葉や態度で、まこ――じゃなくて、誠くんのことを傷付けたくなくて」  須藤は唸って、ガシガシとスポーツ刈りの頭をかいた。俺の目の奥をじっと見つめ、重々しく口を開く。 「一個だけ、確認していい? 俺、前に誠のこと紹介してやるって言った時、友達として紹介してやるって意味だったんだけど、違う方向性? トーンがさ、友達に対するのと違わないか? 重いっていうか」  ぎくりとした。確かに、友達のことでここまで真剣になるのは不自然だったかもしれない。 「そんなに、変?」 「変だろ。暴力事件とか聞いちゃうとちょっと引くけどさ。うぅん……あー……なるほど……ダチじゃなくて、そっち方面の……」  取り繕う言葉が見つからない俺と同じで、須藤も頭の回転が追いついていないみたいだ。  しばらく二人とも目をそらしたまま黙っていた。須藤のほうが先に落ち着きを取り戻したみたいで、小さな声で話し始める。 「清水が誠のことを好きだとしても、俺から言えることって、多くないぞ。でも、みんなが知ってることくらいなら言ってもいい。あまり、誠の傷を抉るような真似はしないでほしいし」  何から言えばいいんだろう。  須藤は呟いたあとで、言葉を選ぶようにゆっくり話し始めた。一つも言葉を間違わないように、余計なことを話さないというふうに。

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