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根も葉もある噂4

―恵介―  清水に問われて、俺は昔の記憶を辿っていた。どこまでなら言えて、何を言ったらいけないのか。  誠のお母さんが亡くなったのは、小学何年生の時だっただろうか。確か冬で、妙に生温い日だったことを覚えている。  誠や他の友達と放課後一緒にハンドベースをし、汗をかいた上に薄着だったから、俺は翌日風邪を引いたのだ。  風邪から回復して久しぶりに学校に行くと誠の姿はなかった。友達に訊くと、俺と同じで何日か休んでいるということだった。  何気なく家でそのことをばぁちゃんに言うと、ばぁちゃんは悲しそうな顔で誠のお母さんが亡くなったのだと教えてくれた。  その時は事故で、と聞いたけど、後々自殺だったと知ることになる。親にでも聞いたのか、無神経な同級生が知った風に言いまわっていたからだ。  誠は一旦学校に来るようになったけど、妙に気づかわれるのがつらいと言って、学校に来なくなった。そのうちにフリースクールで年上とつるむようになり、髪を染めたり、煙草を吸ったりするようになった。  仕事で家を空けてる親よりばぁちゃんのほうが誠を心配して、よくご飯に誘っていた。  中学校に入る頃には、お父さんはすっかりアルコール中毒になり、家でやっていた美容室もしまったままになることが多くなった。誠は家に寄りつかず、俺からも距離を取るようになる。  噂で、知らない親父相手に体を売ってると聞いた。誠に久しぶりに会った時に問い詰めると、〝家にいるよりおっさんと居たほうがマシ〟と言って、肯定はしなかったけど、否定もしなかった。  それからまた会わない日が続いた。テストの時だけ学校に来る誠を見ると、どんどん荒んだようになっていく。  そして、中二の学年末テストの最終日が、清水が女から聞いたという例の日だった。救急車が学校にくるほどだったから、知ってる人も少なくない。  窓の外で真っ白な雪が降りつもる中、誠は血だらけで教務室に引っ張られていった。木製の椅子で先公を滅多打ちにしたらしい。先公はそのまま消えた。誠は年度いっぱい休んで、四月から学校に復帰した。  親身になってくれた担任と色々あったらしく、誠はすっかり大人しくなっていた。髪も黒く戻し、たくさん空けていたピアスも外していた。  事情は知らないけど、よほどの理由でもないかぎり、椅子で滅多打ちになんてしないだろう。そもそも誠に病院送りにされた先公は、学校でエロ動画を見たりだとか、色々問題のあるやつだった。  根も葉もない変な噂が流れる前に、居もしない被害者を作り上げ、お涙頂戴な上、誠の武勇伝になる話を流したのは俺と仲間だった。  側で見てた俺らが知ってる以上の話を、他のやつが知ってるわけはない。 「小中学校が一緒のやつなら誰でも知ってることだけ言う」  清水にそう伝えた。  俺だって、誠がどんな流れで先公を殴るまでに至ったのか、真実は知らない。ただ、知ってる事実を言うしかなかった。

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