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根も葉もある噂5
―善―
「小中学校が一緒のやつなら誰でも知ってることだけ言う」
そう言って須藤は、再び口を開いた。
「すっげーざっくりまとめると。小学校の時にお母さんが亡くなって、それが原因でお父さんはアル中になって。家族のことで色々言われた誠はちょっとグレたわけさ。んで、中学の時にとんでもない先公がいてぶん殴ったけど、三年生からは真面目になって今に至る。……以上!」
須藤はあまり重くならないよう、わざとおちゃらけて言った。声のトーンと話の内容が噛み合わず、何度も頭の中で言葉を繰り返し、理解する。
「それ以上のことを、須藤は知ってるの?」
俺が問うと、須藤は親指と人差し指を近づけた。
「ほんのちょっとだけ」
「だから、須藤は誠くんから離れないことを決めたわけだね」
「知ってるからっていうか、何もわからなくたって、誠からは離れないよ。昔から誰にだって優しくて、意味もなく人を殴るやつじゃないもん。今言った以上のことは、俺からは言えない。清水が知る必要もないと思う」
「うん、なら、聞かない」
俺があっさり言うと、須藤は呆気に取られたように口をあんぐり開いた。豆鉄砲を食らった鳩はそんな顔をするだろう。真似が上手だな。
「え? 聞かないの? 大抵しつこく問いつめられるんだけど」
「だって、まこに嫌な思いさせたくないもん」
「ならいい。って、まこって、まこってなんだよ。初めて聞いたわ、そんなあだ名。彼女からだって呼ばれてるの聞いたことないもん」
「須藤は使わないでね、俺だけ特別。それと、彼女のこともっと詳しく聞かせて。事件のことより、そっちが気になるんだけど」
「事件のことよりって、元カノのこと聞いて楽しい? 嫉妬しない? ってか、もう結構誠と仲良いの? 付き合ってるわけじゃないよね? ねぇ?」
「ふふ、ナイショ」
須藤の豆鉄砲面に笑いながら、俺は心に誓った。まこを傷つけるようなことは言わないし、まこから今後何を聞いたって、態度にも出さないと。
―END―
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