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雑なキューピッド1
清水善×坂本誠
―誠―
居酒屋でのバイトが終わって、更衣室でスマートフォンを確認した。着信が一件。幼馴染の須藤だった。
駅前から続くアーケードをくぐりながら電話をかけ直す。
「もしもし? 何か用事?」
「用事用事、めちゃくちゃ重要な用事」
思ったよりでかい声に驚いて、スマートフォンから耳を離した。そのままスピーカーに切り替える。
「いきなり、うっさい声出すなて」
「悪い! 伝えたいことあって。誠、今家?」
「バイトから帰る途中。冬休みはぎっちりシフト入れてるっけ」
「まじかー。明日も?」
須藤はあからさまにガッカリした声を出した。
バシャーっ、
(冷たっ)
そばを通っていった車が雪混じりの水を跳ね上げ、俺の足をぬらした。疲れてんのに、最悪。須藤には関係のないことなので、ため息はのみこんだ。
「明日も夕方からバイト。昼間は大丈夫」
「昼大丈夫なら、うち遊びこいよ。清水も勉強しにくる予定だっけ」
「え、善も来るが?」
俺は食い気味で言った。冬休みに入ってから、善とは一日も会えていない。心の栄養不足だった。
「ったく、疲れた声してたのに、現金だなー。じゃあ昼前に家きて。ばあちゃんが飯作って待ってるっけ、腹すかしてこいよ」
「わかった。じゃあ、おばあちゃんによろしく」
はずみそうになる声をおさえて、電話を切る。スキップしたい気分だったが、道がびしゃびしゃだったから心の中だけでしておいた。
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