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雑なキューピッド2

 翌日、小学校の頃までは毎日のようにお邪魔していた須藤の家まで向かった。  病院を経営してるにしては派手派手しくない家だ。自然派住宅というやつなのか、本物の木がたくさん使われていて温かみがある。  インターホンを押すと、はいはーいとのんきな声がして須藤が出てきた。  玄関に入ると、キッチンのほうから「手洗いとうがいしてねー」と、おばあちゃんの優しくて丸い声が聞こえてくる。  昔保育園で園長先生をしていたというおばあちゃんは、俺が小さい頃から優しかった。  須藤がそれを聞いて、ぷっと噴き出した。 「誠のこと、いまだに小学生扱いしてるよな、うちのばあちゃん」 「笑うなて。砂糖のお水いる?って聞かれないだけ大人扱いになってるろ。昔はうがい薬の代わりに砂糖水くれてたもんな」 「ちょっとでっかくなると塩水に変わったりしてな」  手を洗っている最中に、須藤は善を呼びに行ったみたいだった。  しばらくして二人が降りてくる。  洗面所を出た瞬間、初めて見る善の私服に胸がはねた。にやけ面になりそうなのを誤魔化そうとして、デヘヘと変な声が出る。 「うわ……気色、悪っ」  躊躇なく、須藤につっこまれる。自分でも思ったからわざわざつっこんでくんな。  ご飯を食べ終わっておばあちゃんがキッチンに立つと、須藤が声をひそめた。 「午後は、誠の家行こうぜ。もう勉強するの限界。家にいたら、ばあちゃんに監視されてるし」 「監視って、人聞きわりぃな。須藤がサボってばっかなのが悪いんだろ。ってか、勉強しなきゃいけないなら俺帰るよ。二人の邪魔したくねぇし」  食器洗いを始めたおばあちゃんに聞こえないよう、小さく言葉を返す。  須藤がキャラに合わない顔で唇をとがらせた。 「何のために誠、呼んだと思ってんだよ」 「勉強サボるためだろ?」  即座に言い返すと、須藤はねちっこい目で俺を睨んでくる。 「清水と会わせてやるためにだよ。ボクちゃん、優しいでしょ? 冬休みに入ってから清水テンションだだ下がりだからさぁ。一肌脱いであげようと思って。ボクちゃん優しいでしょ?」  恩着せがましく須藤は二回言って、なおも気色悪い顔で唇をぴよぴよさせている。  善はどう思ってるんだろうと視線を向ける。嬉しいような困ったような複雑な顔をしていた。 「……須藤、いきなり家に行くなんて、まこに迷惑がかかるからやめておこう。すっごく行ってみたいけど。行きたい気持ち九割くらいだけど」  善は後半に気持ちを込めるだけ込めて言った。  どうしよう。別に家に来るのはいいけど、父さんのこと、善にはまだ言ってないんだよな。父さん、昼間から酒飲んで寝てたし、大丈夫か。  父さんのことはさておき。もう一つ家に来られたら嫌な理由があった。  昨日善と電話しながら抜いたティッシュがまだゴミ箱に入りっぱなしだ。  昼ごはんを食べて温まった体から、冷や汗がじんわり滲んでくる。  善に実物を見られるのは嫌だし、須藤に抜いたことがバレるのも嫌だ。もし本当に家に来る気なら、さっさと帰って掃除がしたい。 「あのさ……うち、親父がアル中だっけ、なんか荒れてたりしたらごめんね。じゃ、先に帰るっけ、ゆっくり来て!」  業務連絡並にサクッと言って、キッチンにいる須藤のおばあちゃんに挨拶する。  善が、そんなノリで言っちゃう?と愕然とした顔をしてた気がしたけど、俺はティッシュを回収することで頭がいっぱいだった。

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