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雑なキューピッド3

―善― 「あのさ……うち、親父がアル中だっけ、なんか荒れてたりしたらごめんね。じゃ、先に帰るっけ、ゆっくり来て!」  まこは爽やかにグーサインを出しつつ、玄関を出ていった。え、そんな内容さらっと言っちゃう?  複雑そうな顔で須藤が俺の肩にぽんと手をおく。先日した俺の覚悟はいったい。 「誠、ちょっとアレなとこ、あんだよな。オーバーヒートするとゴミ箱に全部ぶん投げるみたいなとこ」 「アレなとこって言葉で済ませる?」 「ま、ゆっくり歩いて向かおうぜ」 「……う、うん?」  釈然としないまま、須藤についてまこの家に向かった。  ゆっくり歩いたにも関わらず三分もかからないうちに到着する。保育園の時から一人で遊びに行っていたというから近いだろうとは思ったけど、羨ましすぎるくらい近い。 「誠の家、あこ(あそこ)」  駅から続く商店街の外れにまこの家はあった。  一階部分は改装されてお店になっている一軒家。〝Hair〟と書かれているから美容室なんだろう。外壁まで塗られて綺麗だけど、作り自体は古そうだった。  家のわきの――勝手口と呼んでよさそうな玄関にあるチャイムを須藤は鳴らした。 「はぁっはぁ、いらっしゃ、い」  階段をドタドタ下りる音がして、まこが出てきた。荒くなった息がちょこっとだけ色っぽい。  平静を装って家の中に入る。 「お邪魔します」  須藤と一緒に玄関から声をかけてみたものの、返事はなかった。 「さっきまで寝てたっけ、多分まだ寝てると思う。一応、もう一回見てこようかな」  まこは一階の奥に消えた。少しして戻ってくる。 「めっちゃ熟睡。少なくとも夕方までは、起きねぇわ」  戻ってきたまこは、安心したような呆れたような顔をしていた。 「じゃ、俺帰る。チャンスだし」  須藤は鼻息荒く言った。チャンスって?と聞く間もなく、跡形もなく消えていった。 「なんだあれ?」 「さ……さぁ?」  まこと目が合うと照れ臭くなり、もう一度小さく「お邪魔します」と言って玄関脇に長靴をそろえた。

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