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雑なキューピッド5
柔らかく唇が触れた瞬間、まこは俺の手からすり抜けベッドにダイブした。それはそれは鮮やかなダイビングだ。もしや読み間違えたか。
「ごめん、もうしないから、戻ってきて」
「違う。今変な顔してるっけ、見せたくないだけ」
毛布に顔を埋めるまこの耳のふちが赤く染まっている。
まこの部屋で、まこがいつも寝ているベッドで。キスだけで照れる愛おしい恋人が横になっている。
昨日の電話での甘い声を思い出した。切なげに俺に触られたいと言っていた時の声だ。
「まこ、可愛い。耳だけじゃなくて、首まで真っ赤っか」
もう我慢するのなんて無理だった。まこに近づいて、赤く染まった首を指でなぞる。びくりと身体を跳ねさせたまこを後ろから抱きしめた。
二人分の体重で、ネジの緩んだパイプベッドがぎしりと軋む。
「ギュウするだけじゃなくて、身体も触っていい? まこが可愛すぎて、もう我慢できない。電話でしてたこと、しよう?」
「っ、だめ。ちょっと、待って」
拒否する言葉は聞こえたものの、照れているだけだと思い、片手をベッドとまこの間に滑らせた。
目的地にたどり着くと、キスしたせいか少しだけ芯のできたペニスを柔く揉む。
「善、本当にやめて」
まこはさっきより強く言うと、俺の手を上からつかんだ。その拍子に、爪が引っかかる。
「……っ、痛い」
手の中にある昂りはすっかり萎えていた。意外と強いまこの力に手を引く。口だけじゃなく、本当に触られるのが嫌だったらしい。
そうか、電話でなら男相手でも平気だったけど、実際にしてみたら気持ち悪かったのか。一方的に盛られたら嫌な気持ちになるのも当たり前だ。体格に差もあるし怖かったかもしれない。
むなしくなる気持ちをととのえ、まこの手を握った。握り返してくれたことで、まだ嫌われてはいないとほんの少しだけ安心する。
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