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雑なキューピッド6
―誠―
「嫌な思いさせてごめん。もう触らないから、安心して?」
善はそっと手を離すと、ベッドから離れてガラステーブルの向こうに座った。さっきまで近かった距離を考えると、ものすごく遠く感じる。心まで離れた気がした。
「どうして離れるが?」
テーブルの脇を通って善の隣に座る。もう一回ハグしたくて腕を伸ばすと止められた。
「まこに触ってたらまた襲いそうだから、ギュウはだめ。今、暴走した息子にメッてしてるとこなの」
「そっか……ギュウはしなくても、ここにいていい?」
「隣もちょっとな。浮かれ気味なの落ちつくまで、待って」
離れるように座りなおした善に俺はそっか、と言った。伸ばしかけた手で膝を抱える。
ギュウ、したいなぁ。
隣にいるのに、善はちっともこっちを見てくれない。ヤバい、だめだ。さっき触るなって拒否したのは俺なのに涙が出そう。自分勝手すぎるだろ。
俺は大人しくベッドに戻った。涙目なのがバレないよう、頭の上から毛布をかぶる。かまってちゃんすぎる自分に嫌気がさした。電話で散々煽ってたのは自分なのに。
「まこ?」
善は心配げな声で俺の名前を呼んでくれた。少なくとも怒ってはいないらしい。
善のことを困らせるだけだろうなと思いながらも、我慢できずに言った。
「ちょっとだけでいいから、さっきみたいにギューしたい。すぐ離すから」
畳が擦れて、善がベッドの側まで来たのがわかった。
「まこ、俺ね、まことギューするのが嫌なわけじゃないよ。でも、まこの声を聞きながら毎晩やらしーことをしてたわけですよ。だからまこに触ったら、抑えられる自信がない。今も正直に言えば触りたくて、手も下半身もウズウズ中」
冗談めかした善の声が少しかすれていて、心から俺に触りたいんだと伝えてくる。
好きな人が俺で興奮してくれてることは嬉しい。俺だって一人でする時は、善に触ってもらってるとこを想像するくらいだし。
だけど、急に触られた時は嫌悪感のほうが勝った。色んなことがフラッシュバックして、吐き気と頭痛に襲われた。
父さんのこともだし、善に対して言いたくないことが多すぎる。
「理由は言えないけどさ。男の人に触られるの、怖くて。善が嫌だってわけじゃない。急だったのが怖かっただけ」
善の顔を見る勇気がでなくて、俺は毛布にくるまったまま言った。怖くなった理由までは口に出せない。
おっさん相手に体を売ってたとか、先公に何度も犯されたことがあるなんて、綺麗に生きてきた善には知られたくなかった。
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