清水善×坂本誠 ―誠― 　翔嶺高校は、昨日まで冬季講習があったらしい。 　日中、須藤の家で勉強していたという善が、俺の家に泊まりにきた。善は少しだけ続きをするということで、ガラステーブルに向きあっている。 　普段は裸眼かコンタクトの善が今日は眼鏡姿だった。 　うわ……雰囲気変わってカッコいいな。ジロジロ見たい気持ちをおさえて、視線をそらした。 　無駄にストーブの設定温度をぴこぴこ弄る。上げて、下げて、元通り。 　年末ギリギリまで冬季講習があるなんて、やっぱり翔嶺に通ってる人は勉強漬けなんだなぁ。 　うちの学校は課題すらないから、遊ぶか、バイトに勤しむかの二択だ。 　善の邪魔をしないよう、そっとノートを覗き込んだ。英語のようで英語じゃない、知らない言語の文章が並んでいる。 　邪魔しないように、なんて思っていたくせして、つい言葉が出た。 「これ、韓国語？」 　頭の中はチンプンカンプンだった。 「ドイツ語。うちの学校、国際交流を推進してて、受験とは全然関係ない勉強もあるんだよね。それにしても、韓国語って根本的に違う気がするけど……」 　笑い気味に言われて、唇を尖らせた。聞いたのは俺なのでそっと戻しておく。 　一緒に居ても邪魔しかしない気がして、俺は善に言った。 「ゆっくりしてて。まだ早いけど、夕飯作ってくる」 「何か手伝うこと――」 「ないよ。親父と鉢合わせしても面倒だし、大丈夫」 　今日の父さんは機嫌が良さそうだったけど、会わないなら会わないに越したことはない。 　善に勉強続けてて、と言って、俺は一階におりた。 　ご飯が出来上がった後で部屋に戻った。夕食には早すぎるかもしれないから、持ってくるのは善に聞いてからにしよう。 「須藤の家で食べたなら、まだお腹減ってない？」 「まこの手料理食べられるって知って胃が喜んでるから、もう充分減ってる」 　善は薄く筋肉のついた腹をぽんぽんと叩いた。 「胃が喜んでるって、なんだそれ。じゃ、持ってくる」 　早く食べればその分、ゆっくり善と話せる。なんて、ちょっと……だいぶ、浮かれ気分だった。