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味覚音痴は誰ですか?2
いただきます、をして食べ始めた。
綺麗な食べ方だなー。善の箸使いを見て、俺も少し気をつけてみる。付け焼き刃で気をつけてみても、どこか不恰好な気がした。恥ずかしい。
「あ、味、薄かったりしたら醤油持ってくるっけ、言って」
小学生の頃、一時期カップラーメンや菓子パンしか食べていなかったせいか、俺は味覚が鈍いらしい。自覚はないけど時々指摘されるからそうなんだろう。
「薄くないよ。ちょうどいい。……ねぇ、一個気になるんだけど」
善はものすごく真面目な顔で言った。
「な、何?」
やっぱり不味かったのかと、ひやりとする。
「須藤とか、中尾って、まこの手料理食べたことある?」
「えっ、須藤はどうだったかな……ないかも。中尾はあるよ」
「ぐっ……中尾に負けてる」
「なんで悔しがってるの? 勝ち負けとか、ないでしょ」
頭のネジの飛び具合にぷっと息を噴き出した。
とりあえず料理に変なところはなかったらしく、安心する。
それでも本当に美味しいのか顔色をうかがうと、善が「ん?」と首を傾げた。
「何でもない。……いや、変な間があったのに、何でもないって言われても困るよね。俺、あんま、料理得意じゃなくて。謙遜じゃなく、本当に」
「作れるだけすごいよ。それに、本当においしいし、食べてて心が温かくなる。うち、ご飯食べてても楽しい雰囲気じゃないんだよね。だから、気にするようなこと、何にもないのに」
「ありがとう」
ちょっと声がかすれた。テーブルの上で握りしめた手を、善はそっと握ってくれる。
体を売ってたとか、悲惨な生活だったとか、善には言いたくないことが多い。
善は箸を置いて、俺の隣まできた。
「ギュウしていい?」
「……いいよ」
善は俺を抱きしめて、背中をぽんぽん叩いてくれた。俺も善の背に手を回す。
自分より熱い体温に、安心した。
とげとげと不規則に打っていた心臓が、穏やかになっていく感じがする。
ご飯を食べおわり、廊下に食器を出した。持って行くのは後でいいだろう。
ガラステーブルに残ったままの麦茶をあおり、善の隣に座った。
座り心地が悪い。妙にそわそわする。
「な、なんか、改まると、しょーしい んだけど」
「……顔赤くして、可愛い。まこは期待してなかった?」
「期待は、まぁ、してたけど。でも、俺ら、けっこう駆け足じゃない?」
付き合ってまだ二週間足らずだ。キスはともかく、途中まで致してるなんて、男同士だとしても手が早すぎる。
「もうちょっと、ゆっくりにする?」
意味深に手を握りながら聞いてくる善は意地悪だ。そんなこと望んでないのわかってるくせに。
「ゆっくりじゃ、なくていい」
俺が言うと、チュ、と唇の端にキスをされた。ぎこちなく顔の向きを変え、キスを受け入れる。
俺を気遣ってか、合わせるだけのキスだった。
しばらく啄むだけのキスをしていると、だんだん焦れてきた。頭の奥がジンジンする。もうちょっと刺激が欲しい。
俺はそっと唇を離した。
「あ、あの、さ……」
続きを言えないでいる俺に、善が囁いた。
「したことないんだけど、深いやつ、していい? チュウしてる時のまこ、可愛いすぎて、たまんなくなってる。やだったら断って。今ならまだ我慢できる」
「いいよ、舌絡ませるやつ。俺もしたい」
もごもご言うと、善は伺いを立てるみたいにチョンとキスをした。口を少し開く。
「……っ」
善の舌と触れると、口の中がびりびりした。
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