75 / 83
初めての初詣3
朝、洗面をすませると、俺は自分の部屋に戻った。
ドライヤーで髪を半乾きにし、コテで整える。いつもはドライヤーで乾かすだけだけど、つい気合を入れてしまった。
ワックスやコテで奮闘し始めてから数十分。俺は後悔していた。気合いが入りまくって、どこぞのホストが誕生している。
うわー、シャワー浴びる時間なんてないし。
どうしよう、なんて思っても後の祭りだ。
諦めて家を出ていく。善に会うの気まずいなぁ。いくらなんでも気合いが入りすぎた。
今日の空は珍しく快晴で、空気が肌を刺すように痛かった。道路はアイスリンクみたいに凍っていて、長靴を履いているのに、ゆっくり歩かないと簡単に滑りそうになる。
思ったより時間がかかってしまったので、駅に着くと階段を一段飛ばしで上がった。改札を抜け、ホームに続く階段をかけ降りる。
「はぁっ、なんとか間に合った」
ホームに入ったばかりの電車の扉を手で開けると、温められた空気が一気に流れ出してきた。
冬休み中の車内は、いつもと違ってガラガラだ。
「まーこ、おはよう」
俺の姿を見つけ、善はフワンと笑った。三白眼気味の目が優しく細まる。この笑顔に俺はけっこう弱い。
「お、はよう」
俺は挨拶して、ボックス席に座る善の向かい側に腰を下ろした。だって、車内はガラガラなのに男二人で並んで座るなんておかしいし。
「まことくん、手ぇ繋げないんですけど」
俺をジトッと見て、善が不満そうに唇を尖らせる。
「仕方ないろ。俺だって別に好きでこっち座ってるわけじゃないが。こんなところで手ぇ繋いでたら変に思われるろ」
「人いないのに、気になる?」
「……なる」
「ふぅん」
ぷいっと善は外のほうを向いた。わざわざ曇ったガラスを指で擦って、窓の外を眺めている。
怒ってるかな? 怒ってるよな。
男でも惚れ惚れするほどクールな善の目が、今は背筋が凍りそうなくらい怖い。
せっかく会えたのにケンカするって、寂しいな。いつも朝に繋いでいる善の手をチラリと見る。やっぱり周りなんて気にせず繋げばよかった。別に見られたって困る事はないし。
触りたい。
さっきみたいに優しく笑ってくれたら俺から握るから、こっち向いてくんないかな。だけど善は窓の外を向いたまま。いつもはすぐ伝わる気持ちが、今は全然届かないみたいだ。
ともだちにシェアしよう!

