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初めての初詣6
―誠―
女と一緒にいる善を見て、勝手に不安になって泣きまくった。そんな俺に嫌な顔もせず、善は優しく頬をなでてくれる。
メンタル終わってるな。心を落ちつける薬、善に会う前に飲んでおけばよかった。いや、善と付き合ってからはわりと安定してるから、せめて予防のためには飲まないようにしたい。できるなら善に知られる前にやめたいし。
善は俺が落ちついたのを確認すると、問いかけてきた。
「お寺行く?」
「うん、行こう。駅裏のほうだったよね、たしか」
電車が出発してしばらく経った駅は、静まり返っている。善とどのくらい距離をあけて歩けばいいのか、いまだにわからない。中尾や須藤と歩く時は意識すらしないのに。
近づきすぎかな?と思って、少し歩くペースを落とす。
友達と歩く時以上に俺と善の間に隙間ができた。自分から距離を開けたのになんだか寂しくなって、善のズボンのバックポケットに人差し指を引っかける。堂々と手は繋げなくても、近くにいたくて。
人は居ないし、いっそのこと繋いじゃえばよかったかな。善の手を見つめて少し後悔する。でも、誰かが来て離さなきゃいけなくなるなら、初めから繋がないほうがいい。
善は違和感を感じたのか、少しだけ振り向いた。そしてポケットに引っかかった俺の指を見ると、何も言わないでそのままにしてくれる。
もし何か言われたら絶対に離してた。恥ずかしいじゃん、結局、我慢できないのかよって自分でも思うし。
階段を降りて駅の構内を抜けると、昔は栄えていたであろう門前町が軒を連ねていた。消雪パイプの水で濡れないように避けながら町を歩く。
「まこは中三の時、何か部活に入ってた?」
無言のまま歩いていると、善が俺をチラリと振り返った。
「ボランティア部」
一、二年生の時不登校だったことは知っているから、〝中三の時〟と聞いてくれる善の優しい所が好き。
善は笑った。
「なんか似合う。まこらしいね」
「似合うわけないし。本当は、ボランティア部に入るつもりだったのに、〝ガラじゃねーだろ〟ってダチに言われて野球部に入らされた」
「ダチって須藤? 須藤も野球部だったよね」
「ううん、誘ってきたのは違うやつ」
「三年生からだと運動部キツくない? うちの学校は一年の時だけだったな、運動部に移動できるの」
「うちの学校も本当はそうだよ。練習キツいし、三年がいきなり現れても後輩的にも微妙だしさ」
もっと邪険にされるかと思いきや意外といいやつばかりだったけど、それでもお互い気は使う。
「ま、確かにね」
「だからずっと基礎練と裏方してた。むしろ雑用を進んでやってたから、マネージャーみたいなもんだったな」
「それはそれでまこらしい。偉ぶらないとこがいいよね」
「運動は得意じゃないけど、お陰さまで足の早さと腕力だけはそこそこあるよ」
「さっき、まこ意外と早かった。追いつけないかもって不安になって、いきなり手首つかんでごめんね」
本気で落ちこむ様子の善に、胸がきゅっとした。
「さっきのは嫌じゃなかったよ。てか、ちゃんと追いかけてきてくれてありがとう。本当は、追いかけてきてほしくて先に行ったが」
そんな卑怯なことをする俺なんか、善と付き合ってて本当にいいのかな。
「……まこ、外でデートするのって辛いね」
「なんで?」
困ったように笑う善に聞くと、善は立ち止まって振り向いた。その拍子にバックポケットに引っかけていた指が外れる。
「触りたい時に触れないから。今、すっごくまこのこと、抱きしめたいのに」
「俺も、善にね、ギュウってされたい」
情けない顔をしていそうで、俯きながら呟いた。
石畳にうっすらと積もった雪を、しゃくしゃく踏む音だけが聞こえる。一度バックポケットから離れた俺の指は、善の指と繋がっていた。善が、繋いでくれた。そんな事あるはずなくても、全部分かった上で許してくれたのかなって思えた。
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