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初めての初詣8

―善―

  絶対に振りほどかれると思っていたのに、まこは手を離さなかった。町から離れた線路沿いの道を歩く。

  たまに手をぎゅっと握っては、顔を見られないよう明後日の方向を見るまこは、素直なのか素直じゃないのかイマイチわからない。

  だけど、どこまで惚れさせれば気がすむんだろう。付き合ってからもどんどん好きになっていく。 

 まこのことを眺めていたら、片道十五分の距離はあっという間だった。駅が見えてくると、まこの足取りは段々と緩やかになる。  ついに立ち止まったまこの視線をたどると、高架橋の下に続く道に目が向いていた。さらに一本向こうに道をずらせば、死角になりそうだ。

  まこはちょっとの間その道に目をやると、思い直したように駅に向かおうと足を動かした。 「まこ、待って。まだ時間あるから、やっぱりもう少し二人でいよう。まこダウン着てるから寒いの大丈夫そう?」  俺はまこの手を引いて、一本向こうの道に場所を移した。雪壁に遮られ、思った通り死角になっている。

  手を繋いだまましゃがみ、無言のまま膝に顔を埋めるまこのつむじを眺める。 「まこー? まことくーん?」  声をかけても返事はなくて、ただ時間だけが過ぎていく。  意を決したみたいにまこが顔を上げた。 

「なぁ……善、目ぇつぶって」

  マフラーを引き寄せられ、柔らかい物が唇に触れる。目をつぶる間もないくらい急で、まこの真っ赤になった顔が一瞬間近に見えた。一応、まこの言うとおり、あとになってから目をつぶる。

 「まだ目ぇ開けちゃだめだからね」

  息継ぎの合間に、まこは熱い吐息で言った。 

「うん、わかった。開けないね」

  返事はしたけど、薄目を開けるなとは言われてない。俺はそっと目を開け、夢中になって唇を押し当てるまこの顔を眺めていた。

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