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初めての初詣9

 まこが角度を変えるたび、白い息が空気に溶けていく。

 「ふぅっ、チュウするの、ヤバい」

  すりすりと唇をこすりつけたまこは、座りなおすように腰を動かした。 「可愛い。そんなに気持ちいい?」 「ん、気持ちいい、とめられんくて、ごめん」  まこは呟いて、もう一度唇を合わせた。無意識かわからないけど、自分の腕を下に押しつけている。  正直下半身にかなりキた。にんじんを鼻先にプラプラぶらさげられる馬の気分だ。 「まこは気持ち良くても、唇すりすりされてるだけじゃ、俺は全然足りないなぁ」  わざと拗ねたように言うと、まこは慌てて唇を離した。 「ごめん、善はもっと深いチュウがいい?」  申し訳なさそうに目を伏せたまこのまつ毛がかすかに揺れている。  無理をさせる気はないけど、もう少しだけ深く触れ合いたい。少しずつ発散しないとそのうち我慢の限界がきて、まこをガブガブと襲いそうだ。 「まこが嫌なら、まこがしたくなるまで我慢する。 でも、好きな子に唇ハムハムされたら、もっと深いのがしたくなるのは当たり前なんじゃない?」  責められていると感じないよう、片手で優しくまこを抱きしめる。もう片方の手はまだ繋いだままだ。 「まこはチュウする時、何が嫌?」 「唾液がぬるってするのと、なめ回される感じがもしかしたらキツいかも」  何かを思い出して、まこは眉間に皺を寄せた。 「嫌なこと聞いてごめんね」  まこの背中をポンポン叩いて、安心させる。  唾液か。どう考えても避けられないよな。なめ回される感じがキツいかもしれないということは、俺からしなければ大丈夫かな。 「ちなみに今みたいに擦ったり、ハムハムするのも、俺の方からするのは嫌でしょ?」 「ううん……それくらいなら、大丈夫。善だし」  少し間をおいて、まこは俺の唇を控えめに咥えた。そして目をそらして呟く。 「善もして?」  俺は噛みつきたい衝動を抑えて、まこの唇を優しくついばんだ。まこもそれに応えるように唇を吸い、表面を擦り合わせる。  いつの間にか唇の表面だけじゃなく、裏側の粘膜まで触れ合っていた。まこの口の端から一筋よだれが垂れる。  まこは気付いてないかもしれないけど、もう唾液はとっくに混ざっているんじゃないかな。  俺は顎に垂れたまこの唾液を舐めとって、口の中で転がした。味はしないけど気分的には最高だ。  まこは顎をぬぐい、俺の目を見た。 「……善の唾液なら、平気っぽい。ねぇ、善、俺変なこと言ってもいい?」 「変なこと?」 「引かない?」 「う〜ん、たぶん。聞く前から絶対なんて言えないけど」 「たぶん、か」  落胆したようにまこは俺の肩に顔を埋めた。 「も~、まこってば。目の前にいるのは、九ヵ月も無言でまこを見つめてたくらいまこのことが好きすぎてヤバいやつだってこと、忘れてない? まこに言われて引くことなんて、ほぼ無いと思う」 「……え、九ヵ月? って、いうと、何月からだ?」  そうか、まこに面と向かって言ったことはなかったか。 「俺のほうが片思いしてた期間は長いんだよ。入試の時からかな。まこのことが気になってたのは」 「入試の時ってことは、三月? 何それ、全然知らんかった」  それを聞いて、まこの耳が赤く染まる。照れてる所を隠せてないまこが愛しくて仕方ない。 「で、変なことって?」  自分で言い出しておいて忘れていそうなまこに問いかける。まこは言いにくそうに目をそらした。 「あのね、舌、べーって出しててくれる? 俺ももっと深いのがしたくなった。でも……」 「はは、そんなことで引くと思ったの? まこが俺の舌を舐めてくれるって思ったら、興奮しすぎてヤバい。 気持ち良くても動かさないようにするから、安心して」 〝でも〟の後に続く言葉はわかる気がしたから、遮った。 『でも、触られるのは怖い』そう言った後で、まこが泣きそうになるのが目に見えている。 「おいで、まこ」  手をぎゅっぎゅと握り、少し舌を出して誘うと、まこはおずおず俺の舌に自分の舌を絡ませた。 「……っ、あ……」  舌を絡ませただけでまこの体が跳ね、太ももが痙攣している。まこは荒い息を吐いて自分の膝に顔をうずめた。 「もしかして、出ちゃった?」  俺の問いに、まこは首を横に振った。 「出てないけど、気持ち良すぎて一瞬出たかと思った。危なかった」  必死に息を整えているまこは、心配になるくらい可愛いかった。

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