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最終話
3月、半ばすぎ。
窓の外から、キャッキャとはしゃぐ声が聞こえる。
俺たちが作ったかまくらは案の定しぶとく生き残っていて、春休みの子供たちの遊び場になっていた。
「メール来たっ」
小さく叫んだ蓮は、パソコンに向かって前のめりになる。
そして、小さくうんうんとつぶやいたあと、いすをくるりと回転させてこちらを向いた。
「単位、認定されました!」
「おめでとう」
ぱちぱちと拍手する。
「きょうは奮発して、いいお肉ですき焼きにしようか」
「いいの?」
「お祝いだからね」
「やった」
俺もおととい、フリーランスとして初めてお金をもらった。
夕食後、少しお酒も飲んでまったりしたところで、俺はキッチンの吊り戸棚からものを取り出した。
「蓮」
「ん?」
ソファに座っていた蓮は、手に持っていたビールグラスをローテーブルに置く。
「2年生修了おめでとうと、俺の記念すべきお給料1発目の使い道として、蓮くんにプレゼントをしたいと思います」
「え?」
驚く蓮に、小さな箱を手渡す。
「ありがとう。なんだろ、ふたりで遊ぶにしては小さいような」
いつかあげたジグソーパズルのせいで勘違いしてるのか、遊び道具だと思っているらしい。
ちょっと可愛いし、開けた時の反応が見ものだ。
スルッとリボンを解いて開けると、黒いベルベット張りの箱。
「え? これって?」
「開けてみて」
ワニの口のようにパカッと上ふたを開けると、片耳のフープピアスが鎮座していた。
蓮は、目を丸くしている。
「え、ありがとう。いつ買ってきたの?」
「きのう、蓮が学校行ってる間に」
シルバーのピアスを、親指と人差し指でそっとつまみあげる。
「こんな高そうなの、いいの?」
「気に入ってくれるといいな」
蓮は、つまんだピアスをぐるぐると見回した。
「あ、黒い石が埋め込んである」
「オニキス。店員さんに聞いたら、厄除けの石ですよって言ってた」
「パワーストーン? けっこうロマンチストなんだな、弓弦って」
「そういうわけじゃないけど、変な意味だったらやでしょ」
「あはは、ありがと」
留め具をプチッと外して、左耳につける。思ったとおり、よく似合う。
「うん、すごくかっこいい」
「見てきていい?」
「どうぞ」
お風呂場の鏡に向かった蓮は、「わあ」という感嘆の声をあげた。
そして、満面の笑みで戻ってきて、そのまま抱きしめられた。
「大事にする。ありがと」
ソファの上でのしかかられたら、簡単にバランスを崩した。
キスされて、そのまま首筋やら耳やらにも、ちゅ、ちゅ、と口づけされる。
「やばい、弓弦。ほんとうれしい」
吐息まじりの言葉は熱くて、左手はつつっと体をなぞっていた。
「可愛がってもいい?」
「うん」
お風呂から上がって、まだぽかぽかしている素肌に蓮の髪が触れる。
蓮が俺のペニスを口に含むと、温かいものにつつまれた感じで、それだけで甘い吐息が漏れた。
少しだけ体を起こして蓮の顔を見ると、色っぽい裸の体にキラッとピアスだけが光っていて、とんでもなくいやらしい光景だった。
視覚だけで、興奮してしまう。
じゅるじゅると音を立てられて、息も上がってくる。
「んん、はぁ……蓮、はぁ」
「ん?」
お尻がひくひくしているのが、自分でも分かる。
口を離し、それに気づいた蓮が、周りをなでながら言った。
「こっちも欲しい?」
こくりとうなずく。
「いっぱい気持ちよくしてあげる」
たっぷりとローションで濡らして指を割り込まれると、上ずった声が出た。
「……ぁあ」
「可愛い」
上半身も、胸を中心にあちこちなで回されていて、うずいてしまう。
「ん、ん……っ」
「弓弦の好きなとこ、触るよ?」
くいっと指を曲げられたら、体が跳ねた。
「ぁあッ」
「ここ気持ちいいよね」
「はぁ、ん、はあ……っ、あ、あっ」
シーツをつかんでいた両手を、頭のうえで束ねられた。
そのままぐちゅぐちゅと中をかき回されると、少し強引な感じに興奮してしまう。
指3本を抜き差ししてぐずぐずにやわらかくなると、蓮はローションのボトルを取り出し、ペニスと後孔のあたりに、上からとぷとぷとかけた。
「ん、やだ……れん、」
やだと言いつつめちゃくちゃに興奮してしまって、ペニスはガチガチに固くなっている。
「弓弦、いつもより興奮してる」
手早くコンドームをつけた蓮に見下ろされたら、それだけでゾクゾクしてしまった。
「蓮……いっぱい気持ちよくなって?」
「やらしい目でそんなこと言うなよ。歯止めきかなくなるから」
「この、ぬるぬるの。蓮の好きにして欲しい」
「……弓弦って結構命知らずなんだな」
そう言うなり蓮は、全体重をかけて体を貫いた。
「あぁあっ」
「好きにしていいの? っ、頭変になっちゃうかも」
「ん、んっ、して」
口をあーっと開けて舌を伸ばしたら、噛み付くようなキスをされた。
そしてそのまま、腰を打ち付けられる。
ペニスはぎゅっと握られて、親指の腹でぐにぐにとこねられた。
「ぁあッ、はあ、ん……っああ」
「やっば……ゆづる、気持ちいい」
「っあ、んっはあ、はぁ……ッあん」
「めちゃくちゃエロい」
蓮の息も上がっていて、本能むき出しの表情をしている。
それにもまたゾクゾクして、ひとりでに腰が動いた。
動きを察知して、良いところに当ててくる。
嬌声を上げながら、蓮の質量を求めて背を反らす。
蓮は眉を寄せ、何かに耐えるようにしながら、中を突く。
荒い息遣いがますます興奮を誘って、思わず自分のペニスに手を伸ばした。
「ぁあ、っ、んはぁ、……っ気持ちいい」
「エッチだな、自分でして」
「はあ、蓮に中してもらいながらいじるときもちいい」
「乳首もできる?」
こくりとうなずき、自分でくりっとつまんでみたら、イキそうになってしまった。
「っ、ん、ダメ……こっちもしたらイッちゃう……」
「じゃあ、手は両方封印」
両手を繋ぎ、そのままシーツに押しつけられた。
「あぁっ、前触って」
「お尻でイッてごらん。気持ちいいから」
イヤイヤと首を横に振ってみたけど、手は離してもらえず、触られないままのそこは、固く張り詰めていった。
「んん、はぁ……っ、もぉイッちゃう」
「触って欲しいっ?」
ガクガクとうなずく。
「ほら。ぬるぬるだね」
「あぁああッ、も、ぁあっ……だめ、イく」
ぐちぐちとペニスにまとわりつく粘着音と、グラインドするように突かれる中。
「……っ、弓弦、オレも無理そ。イッて」
「あ、好き、蓮っ、れん」
何度も何度も好きと絶叫しながら、熱の中心を昂 らせる。
「ん、はぁっ、も、ああ……ッ、イク、イッ……ぁああっ!………!……っ……ぁあっ!」
熱いものがドロッとお腹に落ちると、蓮は腰を激しく打ち付けてきた。
「ぅあ、……イ、く…………ッ……!……っ!」
うっすら目を開けると、絶頂を迎える蓮の耳に、キラリと光る銀の輪が見えた。
いつもどおり長いキスをして、蓮の胸のところで丸まった。
「あしたは? 弓弦忙しい?」
「んー、納期までまだ時間あるから、半日お出かけくらいなら。どっか行きたいの?」
「えっとね……」
と、蓮が言いかけた瞬間、ぐらっと揺れた。
「おっと、地震?」
蓮がとっさに、俺の頭まですっぽり布団をかぶせる。
揺れは大したことがなくて、すぐにおさまった。
「オーバーだな、守るほどのことじゃないでしょ」
手元のスマホをたぐり寄せてみると、震度3。
「ほら、全然」
すると突然、蓮がガバッと起き上がった。
「弓弦、チャンスだ!」
「へ? 何が?」
「いいから、早く着替えて。外行こう」
勢いよくベッドから抜け出して、着替え始める。
俺も訳の分からぬまま服を着ると、そのまま手を引かれて外へ出た。
「どこ行くの?」
「ビルだよ」
急ぎ足の蓮は、遠足へ行く子供みたいな、ワクワクした表情をしていた。
もう終電もないような深夜。誰も歩いていないから、手は繋ぎっぱなし。
15分ほどの早歩きで着いたのは、蓮と出会った7階建てのビル。
形だけの鎖をくぐり抜けて、外階段から屋上へ上がった。
「わー!」
興奮気味の蓮が、金網に駆け寄る。
「蓮、どうしたの……?」
やや息切れしながら隣に立つと、空港の滑走路に、たくさんの整備車両が止まっていた。
「地震のあと、点検するんだよ」
何色ものランプがチカチカしていて、確かに、前に見たときよりも忙 しなさそうに見える。
金網に手をかけた蓮は、滑走路に目が釘付けだった。
「きっと、すごく細かくヒビが入ってないかとか調べてるんだと思う」
「そうなの?」
「分かんないけど、そうだったらすごいよな。あんなちっちゃな地震でも、プロって感じ」
俺には何がすごいんだか全然分からなかったけど、楽しそうな蓮の横顔を見たら、愛しくてたまらなくなった。
金網にかかった手に手のひらを重ねて、顔を近づける。
「キスしたい」
素直にそう告げると、蓮は笑って、ゆっくりと口づけてくれた。
何も言わず、じっと見つめる。
小首をかしげる蓮がかっこよくて、ちょっと照れてしまったけど、しっかり目を見て、心の底から思ったことを言った。
「死なないから、ずっと遊ぼうね」
<終>
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