3 / 10

お化け屋敷リポート③

 このくじ引きはいかさまだ……!  手作り感溢れる四角い箱から引いた紙を、今この場でぐしゃっと握り潰してやりたい。  でもそんな事は出来ないし、かと言ってオーバーリアクションも取れないしで、俺はそれを指で摘んだまま俯いてぷるぷると身を震わせた。  カメラが俺を抜いてる。  聖南達四人は吹き出す寸前で、アナウンサーさんの声にとうとう笑い転げ始めた。 『──ハルくんがドクロマークを引きました! 二回チャレンジはハルくんに決定でーす!』  ……いや、なんで。 俺トップバッターでくじ引いたんだよ。 どんなくじ運してるの。 こんなとこでその運は使いたくなかったよ。  はじめに引いて一発目でドクロマークが出るなんておかしいじゃん。 もしかして、バラエティのおふざけでこの箱にはドクロマークしか入ってないんじゃないの?  絶望して隅っこに身を寄せた俺をよそに、番組は進んでいく。  四人は含み笑いをしながら、聖南、アキラさん、ケイタさん、恭也の順にペアの相手の名前が書かれた紙を次々と引いていった。  ペアは聖南とケイタさん、恭也と俺、そしてアキラさんが引いた紙には、「ドクロマークの相手」と書かれてたらしいから、そこでまた俺はカメラに抜かれた。 「よろしくな、ハル」 「…………はい」  普段からクールなアキラさんの貴重な笑顔を、こんな時に見られるとは思わなかった。  スマホを取り付けた自撮り棒を持たされた聖南とケイタさんが早速、おどろおどろしいお化け屋敷の入り口でカメラチェックをしている(ヘッドカメラじゃなく自撮り棒なのは、聖南が嫌だとごねたらしい)。  俺に「よろしく」って言ったアキラさんも混じって、一発本番だから入念に、操作方法とカメラ向きの調整を行っていた。 「葉璃、よろしくね。 俺達は、順番的には最後にまわる事になるから、二回目だし、大丈夫だよ」  俺のトナカイのカチューシャを外してまで頭をヨシヨシしてきた恭也は、励ましてくれてるつもりなのかもしれないけど……二回目だしって言葉に引っ掛かる。  ドクロマークが書かれた紙を摘んでまだいじけていた俺は今、究極に心が狭い。 「……恭也、意地悪言わないで」 「えっ? 意地悪なんて、言ってないよっ?」 「………………」  ───ほんとにごめん、恭也。 俺まったく余裕ない。  リアクションなんか出来ないと思ってる俺が、二回もお化け屋敷に入るだなんて罰ゲームもいいとこだ。  いや、ここに書かれたドクロマークのイラストは、今回の企画の趣旨に合わせて真っ赤なインクが使われてるから「罰ゲーム」で合ってるのかもしれない。  打ちひしがれてる俺の頭の中は、言うまでもなくその時点で空っぽになった。 「よーし、じゃあ行くか。 俺らは最初だからな、リポート重視で進むぞ」 「おっけー! セナを盾にして行こーっと!」 「俺を盾にするな。 ケイタが前行け」 「えぇ! 嫌だよ! 俺怖いもん! セナはこういうのまったく動じないでしょ? ぬりかべになってよ!」 「なんでぬりかべなんだよ! 俺はでけぇだけで進行の妨げにはなんねぇよ!」 『……セナさん、ケイタさん、モールの使用時間は限られていますので、どうぞ中へ』  カメラが回る中で諭された二人の言い争いは、隔週で放送されているCROWNのラジオ番組を聞いているかのようだった。   いいな……自然体でいられるって羨ましい。  俺はもはやトナカイのコスプレしてる事も忘れて、お化け屋敷の中へ入って行く二人の背中を見送った。 『待機の皆さんはこちらでモニタリングしましょう』  残った俺達三人は、俺を真ん中に小さなモニターの前に置かれたパイプ椅子に腰を下ろす。  恭也はいつもと変わらず無表情だけど、モニターに映し出された二人を観たアキラさんは何だか楽しそうだ。  例によって俺は気配を消している。 「いいな、面白そう」 「あ……ケイタさんが、前に行かされてる」 「セナも実は怖いんじゃねぇの?」 「ふふっ……セナさん、ケイタさんの衣装、掴んでますね」 「ほら見ろ。 やっぱセナも怖えんじゃん」 「でもこの二人は、大声出して驚く、っていうのは無いですね。 ちゃんと、リポートしてます」 「だな。 ……おぉっ、ビックリした」 「────ヒッ……!」  赤外線ライトで照らされたお化けがモニターいっぱいに映し出されて、アキラさんが驚きの声を上げたと同時に俺の喉も鳴った。  うわ、うわ、……っ!  楽しそうだと思ってたけどやっぱ怖いよ……!  俺に二回も行けっていうの!? リアクション取るどころか気絶しても知らないからな!

ともだちにシェアしよう!