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お化け屋敷リポート④
十分後戻ってきた聖南とケイタさんは、リポートの途中で「うぉっ」とか「おぉっ」とか、そんなあっさりとした感じでしか驚いていなかった。
出番を控えた俺はとてもモニターなんか見ていられなくて、ずっと両サイドに居る恭也とアキラさんの腕を掴んで目を瞑っていた。
カメラの前で感想を語る二人の横で、俺とアキラさんは自撮り棒を持ってカメラチェックとヘアメイクの直しを行う。
……あー……嫌だなぁ。 怖いよぉ……。 リアクション出来るかも不安でたまんないし……。
お化け屋敷の前に佇むと、ひんやりとした風と一緒に独特のにおいが鼻をつく。
もうこの際だから、さっきの聖南達みたいに自然体でいこう。 そもそも俺にリアクションを求めたのがいけないんだから……!
『続いては、アキラさんとハルくんにリポートして頂きましょう!』
「行ってきまーす」
「……行ってきます……」
「葉璃ーがんばれよー」
カメラが回っているというのに、後ろから聖南の激励が飛んできた。
聖南さん優しいっ……ありがとう。
と思ったのは一瞬だけで、その後「モニターどこ!? 音量最大にして! カメラはモニター撮っとけよ!」という、聖南のはしゃいだ声が聞こえて何事かと思った。
アキラさんのサンタコスチュームのベルトを掴んだ俺は、前へと歩むスピードにやっとの思いで付いていく。
足元はおろか、前も真っ暗で何も見えない。
いつ何時お化け役の人が驚かせてくるのか分からないこの状況は、聖南の言う通り寄り添い合うしかないシチュエーションだ。
「ハル、大丈夫?」
「だ、だ、だ、だ、大丈夫ですっ」
中に入ってしまえば腹を決めるしかないから、俺はアキラさんに引っ張ってもらう形でなかなか現れないお化けにビクビクしながら進んでいく。
たった今教えてもらったはずの、赤外線ライトのスイッチが分からない。
暗くて見えないから探しようもなく、微かに聞こえてくる不気味なBGMにただただ心拍数だけが上がっていった。
「ここ入んのか」
「……ま、待ってください。 い、いますよ、絶対いますよ、ここ開けたら絶対にお化けいますよ! 開けない方がいいです! 別ルートを探しましょう!」
「……っ、落ち着けよ、ハル。 ここ通らないとゴールまで行けねぇから」
な、なんでアキラさん笑ってるの……! 俺は真剣に言ってるのに!
永遠にも感じたここまでの道中、一人も驚かしに来なかったのはおかしいんだよ! 絶対、絶対、この扉の向こうにお化けは待機してるよ!
「あはは……っ! やば、ハル面白え」
「なんにも面白くないです。 えっ、やっぱ行くんですか、待ってください、待って、……!」
俺の別ルート案を却下したアキラさんは、躊躇なく怪し過ぎる扉を開けた。
その直後だ。
「んっ? んわぁぁぁあぁぁあ……ッッッ!」
「…………!!」
ぬっと壁から現れた何かが、俺のトナカイコスチュームに触れた。
暗くて何が居たのかは分からなかったけど、確実に誰かが俺の隣に来た。
目一杯驚いた俺は、アキラさんにしがみついて必死で走る。
それなのにお化けは追い掛けてきた。 ドスドスドスドス、と派手な足音を立てながら、俊足を誇る俺を捕まえようとしてきたんだ……!
「わわわわ、ちょっ、うわっ、やめっ、もう! 追い掛けてこないでください!! ──だから言ったでしょ、アキラさん! やっぱりお化け居たじゃないですかぁぁ!!」
「ぶふっ……!」
「さ、さっきのが現れたって事は、これからいっぱい出てきますよ! 出てくるんですよ! ていうか追い掛けてくるタイプのお化けが居るなんて……! どうしますか、アキラさん!」
「あはは…! どうもしねぇよ。 ゴールを目指すのみ」
「ゴールぅぅぅ……!」
あとどれくらいお化けと遭遇したら、そのゴールに辿り着けるの……!?
興奮した俺は、滅多に出さない大声と叫び声とで早くも喉が潰れ始めた。
「ギャァァアァァアッッッ!」
「…………!」
「う、うっ、うわぁぁあぁぁあッッ!」
「…………!!」
「い、い、いますね? そこ覗いたら絶対居ますねっ? ……ほらぁっ! やっぱり居ましたよぉぉぉーーッッ!」
「あはははは……!」
我を忘れて叫ぶ俺は、いつの間にかアキラさんの右腕にガッチリと取り憑いていた。
俺の自撮り棒はいつの間にかアキラさんが持っていて、その両方で自身と俺を撮影する器用さに感心する間もない。
そういえば聖南の家でホラー映画を観た時、聖南は「内容が全然入ってこなかった」と笑っていた。 ……ううん、あれは爆笑だった。
肩で息をしていると、ふとさっきの聖南の言葉が頭をよぎる。
───「心配するな、葉璃は出来るから。 俺しか知らなくていいと思ってたのに」。
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