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のどあめの効果はありません

 案の定、トナカイの着ぐるみを当然のように持ち帰ろうとした聖南を必死で止めて、お疲れ様スイーツの入った箱三つを大事に両手に抱えた俺は、聖南と共に帰路に着いた。  煌々とキラめく家中に飾られたカラフルな電飾が、いつも以上にグッタリな俺を労るように出迎えてくれる。  収録のあった今日はまだ、十二月初旬。  まるで小さな子がいるお家みたいに、何事もマメな聖南は忙しい合間を縫って一昨日から部屋をクリスマス一色にデコレーションした。  俺の背丈を優に超える大きなツリーの飾り付けは手伝ったんだけど、あとは全部、俺が寝てる間に聖南が部屋を完璧に彩ってて「ほんとマメですね」って笑っちゃったのを思い出した。 『いや、葉璃のためだけど。 てか俺達のため、かな』  何気なくそう言った聖南が電飾のコンセントを差し込んだ瞬間、途端にマンションの一室が華やかに輝いて感動したものだ。  アイドルとして数多くの色とりどりなライトを浴びてきた聖南だろうけど、その電飾の下で「おいで」と俺に両腕を広げた姿がたぶん、……これまでで一番かっこいい聖南だったと思う。 「そのデザートは明日食おうな」 「えっ? 明日ですか?」 「ぷっ……! マジで声掠れてんな」  聖南のキラキラした姿を思い出してニンマリしてた俺はすっかり気が緩んでいて、いとも簡単に楽しみにしていたスイーツを取り上げられた。  手を洗って早速食べようとしてたのに、聖南は笑いながらほんとにそれらを冷蔵庫に直してしまう。 「今日は俺のを食べてよ」 「え……! もしかしてアレ、させてくれるんですかっ?」 「なんでそうなるんだよ! 葉璃のアレってフェラの事だろ? ダメ、フェラはさせない」 「えぇ……」 「てかもうそんな気分なんだ? 葉璃ちゃん?」 「あっ、いや……」  そ、そんなつもりじゃ……! って、俺の発言はいくらそうじゃないと繕っても無駄だった。  だって聖南は、いくら俺がねだっても「フェラ」させてくれない。  悪いことさせてる気になる──そう苦笑した聖南から、俺の意識を逸らすための濃厚なキスを受けてしまうと、あっという間に聖南のペースになる。  墓穴を掘って顔を火照らせた俺の目の前に、ご機嫌な聖南が四角く薄い箱を持ち出してきた。 「フッ……。 そっちのご褒美はあとでたっぷりあげるから。 今はこっちな」 「……なんですか、その大きな箱」 「ヴィタメールのチョコレート」 「………………?」  ヴィタメール……? チョコレート?  首を傾げた俺の目の前で聖南が蓋を開けたそこには、見るからに高級感漂う三センチ四方のチョコレートがぎっしり詰まっていた。  うわぁ……これテレビでしか見た事ない、お高いチョコだ! 「一枚食ってみる?」 「はい! ……ん、んまぁ……♡ でもこんなに高そうなチョコ買い込んでどうするんですか?」 「全部このフォンデュ鍋にぶち込んでチョコレートフォンデュしよ。 マシュマロとフルーツ買ってあっから」 「えぇっ!? お、美味しそう……! だけどこれ全部溶かしちゃうんですかっ?」  あぁ、と頷く聖南は早々とその支度を始めた。  キッチンに立つと、一枚一枚包装されたチョコレートを剥いてガラスボウルに移していく。  気が遠くなるような作業だから、金銭感覚が合わないとギョッとした俺も隣に立って手伝った。 「俺も葉璃も、クリスマス前から年始までは歌番出演で激務極めんじゃん? 明日はお互いオフだし、クリスマス前倒しで祝おうと思って」 「いいですね……! ゴホッゴホッ……っ」  それはすごくいいアイデアだ!  聖南を見上げて興奮気味に足踏みしていると、話す度にヒリついていた喉がとうとう悲鳴を上げ始めた。  何十枚とあったチョコレートも、二人で剥くとほんの何分かで作業が終わる。 「そんな喉痛めたのか」 「……みたいです。 叫び過ぎました」 「あとは俺に任せて座ってな」  心配しながらも、今にも思い出し笑いしそうな聖南が俺を甘やかした。  でもここからはほんとに、聖南に任せておいた方が早い。  お言葉に甘えてリビングのソファに反対向きで腰掛けると、背凭れに顎を乗せてパティシエ聖南を特等席で見守った。 「いやぁ、でもあれはマジで最高のリアクションだったなぁ。 商売道具痛めたって聞いても怒れねぇよ」 「怒んないでくださいよ……俺見たんですからね? 聖南さん誰よりも手叩いて笑ってた……」 「ぶふっ……! あははは……っ!」  湯せんで溶かしたチョコレートに、慎重に牛乳を入れて混ぜていた聖南はついにこらえきれなかった。  でも俺は、部屋いっぱいに立ち込めた甘いチョコレートの香りと聖南の笑顔に、不機嫌になんてなりようがない。  怒るのも馬鹿らしくなるほど楽しげに笑う恋人が、それはそれは華々しく美しかったからだ。

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