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のどあめの効果はありません②

 沸々と熱されたフォンデュ鍋に、聖南が一口大に切ってくれたフルーツや、表面を炙ったマシュマロを入れてたっぷりとチョコを纏わせて口に含む。  はふはふしながら咀嚼して、口腔内に広がる甘さに瞳を瞑って「ん~っ♡」と歓喜の声を上げてしまうのは、俺が甘党だからだけじゃない。  俺よりも遥かに忙しい聖南が、俺とのクリスマスを前倒しで楽しむために前々から準備してくれてたんだろうなって思うと、胸がいっぱいだった。  聖南は甘いものはほとんど食べない。  だからこれは、俺だけのために用意してくれたんだ。 それだけで濃い甘味がプラスされてる気がする。 「美味い?」 「……はいっ、おいひいれふ!」 「その顔が見たかった」 「…………!」  全部食える?と聖南が笑う。  今日はたくさん聖南の笑顔が見られて嬉しい。  アイドル同士、ましてや同性同士の秘密の恋愛は毎日スリル満点だ。 一緒に住み始めてからはそんなに寂しくないけど、どうしても会話らしい会話が出来ない日もあって。  そんな日が続くと駄々っ子みたいに俺に甘えてくる聖南が、今日に限ってはちゃんと歳上の余裕を見せていて惚れ惚れした。  まぁ……駄々こねて甘えてくる聖南も好きなんだけど。 「葉璃、口の周りすげぇ事になってる」  甘党な上に大食いな(自覚はない)俺は、恋人が隣で優しい視線を送ってくれてる間もひたすら食べ続けていた。  それこそ、聖南が俺の顔を覗き込んでくるその時まで、口の端についたチョコを拭いもせずに。 「へへ……気付いてます。 食べ終わったら締めでめろめろするんです」 「めろめろ? どういう意味? 二十四年間生きてきて初めて聞いた単語なんだけど」 「ふふふ……っ、こうして、ベロで、めろめろって舐めるんです」 「…………っっ」  めろめろってみんな使わないのかな。  聖南の前で、俺は実践してみせた。  どれだけ付いてるのか分かんないけど、付いてる感触が分かるとこに舌を持っていって、めろっと舐め取る。 そして、味わう。  用意してくれたフルーツもマシュマロも食べ切った事だし、俺はめろめろを続行した。  とろけるチョコの余韻と聖南の優しさは、今日のお化け屋敷ロケも何だかんだ良い経験だったかもと思い直せるくらいの効力を発揮してくれて、夢中で舐めては味わうを繰り返す。  聖南の瞳がギラギラしてる事にも気付かないで───。 「……葉璃、ここも付いてる」 「ん、んっ? ……っ!」  ガタッと椅子の引いた音と、舌を吸われたのが同時だった。  唇の端を舐められてビクッと肩を揺らすと、両頬を取られて唐突に口腔内を聖南に犯された。 「ここも。 ここも」 「……っ、ん、っ?」  いや、そこは口の中だからめろめろとは言わない……!  顔の角度を変えて深く侵入してきた舌が、口蓋(こうがい)を舐めて歯列をなぞった。  チョコ以上に甘い刺激がやってきて、俺の脳は即座に聖南の舌を追えと指令を出してくる。  俺の服に手を掛け、上顎をザラリと舐め上げた聖南は眉が顰めると、一度唇を離して「甘ぇ……」と苦々しく呟いた。 「すげぇ甘くない? 牛乳混ぜるからビター買ったのに」 「美味しかったですよ……? んっ…」 「ん~……。 まだチョコレート残ってるし実験してもい?」 「じ、実験……?」  言うが早いか立ち上がった聖南は、キッチンから余ったチョコレートを持ってきてフォンデュ鍋に投入すると、スイッチを入れてニヤッと微笑んだ。 「温まって冷ますまで、葉璃を味見して待とう」 「えっ? ちょっ、こ、ここで……っ?」 「リビングセックスは初だな♡」 「ま、待っ……! 俺、喉が痛いんです! 風邪引いたらどうす……」 「室内温度と湿度は快適に保たれています。 床暖も入れてるから万が一転がっても「ヒッ」とはなりません」 「……っっ!」  なんで似合わない敬語なんか使ってるんだよー!  ギラついた瞳と、本気度を示す真面目な回答に絶句する俺をソファへと運んで押し倒す聖南が、獣と化した。  手早く全裸にされて見上げた先の獣から、さらに俺の目が点になる意味不明な台詞が飛び出す。 「チョコレートフォンデュってねっとりしてっから、のどあめの効果ありそうじゃね? ハチミツとかそれ系の」 「…………は?」

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