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ゲイバーアンビシャスへの再来前日譚10

 閉じていた瞳を開けて、空になっているタンブラーをじっと見つめる。何かの衝撃ですぐに壊れそうな薄造りされたグラスが、今の自分の心のように見えた。 「健吾、お代わりは?」 「もういい。帰ることにする」  カウンター席から立ち上がって地に足をつけたら、ふらりと一瞬だけぐらつく。  いつもよりピッチが速かったのと、日頃の疲れがあるせいか、したたかに酔っていることに高橋は情けなさを感じ、内心舌打ちをした。 「そう。聞きたかった江藤ちんの身の上話も聞けたし、それで満足したのかしら?」 「お前のみっともない顔を見続けることに、心底苦痛を感じてるだけだ。出してくれる酒が美味いだけに、残念としか言えない。これ、釣りはいらない」  長財布から万券を差し出した高橋の手元から、忍は勢いよくそれを抜き取ってひらひらと見せつけた。 「毎度あり。ちょっとした情報提供料も含まれている関係で、チップを弾んでくれたの?」 「そんなつもりはない。手切れ金の一部だと思ってくれたほうが、俺としては気が楽かな」 「言うわね。ここの開店資金にしろって手切れ金を渡してきたくせに、まだ払い足りないのかしら?」  どこか寂しげな笑みを浮かべて嫌味を言った元恋人に向かって、頬の上に描いたような笑みを漂わせた。 「払い足りていないだろ。俺に本気で恋した痛手を、あれくらいのはした金で補えてるとは思えない。その証拠が、見るに堪えないみっともない顔だろ?」 「イジワルを言うときの狡猾そうな表情は、全然変わらないのね。健吾のそういうところが大嫌いよ!」 「知ってる。俺も自分のこの顔が嫌いだ」  高橋の薄い笑みが、柔らかいものへと変わっていった。

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