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ゲイバーアンビシャスへの再来前日譚12
「なんだよ?」
「お願いだから……。たまにでいいから顔を出して。会員登録してる関係で、生存確認したいのよ」
高橋の今後の安否を心配した忍の言葉に、思わず吹き出しそうになった。
「仕事が忙しくて、いちいちここに来られない。会員登録も抹消しておいてくれ」
淡々とした様子で告げる高橋のセリフを聞き、忍は胸元をぎゅっと握りしめる。つらそうな表情をさせる原因に思い当たるフシはあるものの、元恋人に対してわざわざ宥めるような思いやりは高橋になかった。
心をかける人間は、この世に一人しかいない――。
「分かったわ。店のリストから抹消しておく。だけどね……」
「…………」
「私の心と江藤ちんの心から、健吾を抹消できないことだけは覚えておいてちょうだい。他にもたくさん、アンタに傷つけられた男はいるかもしれないけれど、せめて――」
マスカラと一緒に化粧を崩す原因の涙が、忍の頬を濡らした。
「ふっ、化け物が宇宙人に早変わりだな。これから来店する客は、貴重な生物を見ることになるとか、俺は売り上げに貢献したといったところか」
「言ってくれるじゃないの……」
「俺なんてとっとと忘れて、他のヤツと幸せになれ」
ぼそりと告げながら外に出る。男の声で「バッキャロー」と怒鳴り散らした元恋人の存在を消すために、勢いよく背中で扉を閉めた。
(はるくんじゃなく忍に恋をしていたら、また違った未来になっていただろうな――)
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