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ゲイバーアンビシャスへの再来前日譚14

 それまで浮かべていた笑みを消し去って振り返ろうとしたら、いきなり抱きつかれてしまった。 「な、にを……」  背後から忍び寄られ、その男の左腕が高橋の首に強く巻きつくせいで、上手く声が出せない。右側の腰の周辺に鋭い痛みを感じた。 「高橋さん、全部アンタのせいなんだ。どうして部長の俺が、会社を辞めなきゃならないんだ」 「くぅっ!」  通りを行き交う人々は、明るい街灯の下での揉め事に目を合わせず、巻き込まれないように高橋たちを避けて歩いて行く。 「放せ、こ、の馬鹿っ」 「牧野といいお前といい、どうして俺を馬鹿にするんだ。くそっ!」 「それはこっちのセ、リフだ……。こんなま、ねをしたらっ、人生を棒に振ることになるだろ」  やっとのことで告げた言葉を聞き、男が高橋から離れた。  痛む部分に手を当てながら振り返ると、辞職を促した部長が果物ナイフを手に持ったまま自分をじっと見つめる。 「俺の人生は、もう終わったも同然なんだ。住宅ローンに車のローン、子どもの進学やら何やらで、金がどうしても必要なのに! この年で再就職して、同額の給料が貰えるわけがないだろ!」 「だから馬鹿なんだよ、アンタは……」  人を刺すという犯罪をしでかしたというのに、残された家族のことを考えず、自分のことばかり喚く男に、冷たい軽蔑の眼差しを向けてやる。  顔を歪ませながら痛んだところを押さえていた右手を確認してみると、掌を覆うように鮮血がついていた。  自分の手に血がついているのに、テレビで見るドラマと変わりないそれを冷静に見つめることができたのは、思ったよりも痛みがなかったせいだった。

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