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ゲイバーアンビシャスへの再来前日譚15
今回刺されたことによって、かつての同僚を交える辞職の話し合いの出張に、牧野が行かなかった理由を考えてみた。
本社の一室で牧野に出張に行くように命じられた場面や、今日のやり取りを頭の中でまざまざと思い出していく内に、絡まった糸が容易く解けるように、その理由がすんなりと分かってしまった。あまりの滑稽さに高橋は肩を揺すりながら、けたけたと声を立てて笑った。
笑い転げた衝撃で、刺された傷口から尻の下を濡らすくらいの出血があったが、手で押さえることなくそのまま無視した。
「何がそんなに可笑しいんだ?」
気が狂ったように笑いだす高橋を見て、男は目を見開いたまま固まる。
「牧野はアンタの性格を熟知していた。だから俺をここへ行かせたのさ」
「どういうことだ?」
「俺も結局はアンタと同じ使われる身。逆上したアンタが捨て駒の俺を刺したところで、牧野は痛くも痒くもない。傷害事件を起こしたことで、会社はアンタを堂々とクビにできるだろ」
「そんな……まさか――」
男が持っている果物ナイフが、小刻みに震えはじめた。
「そのまさかさ。今回牧野が企てた、プロジェクトの真相を教えてあげようか?」
言いながら元恋人が大嫌いだと称した、狡猾で残忍な笑みを顔に浮かべてみせる。
「プロジェクトの真相だと? もしかして今回のことと、何か関係があるんじゃ……」
高橋の様子を唖然としながら見つめつつ、男は独り言を呟くように言葉を発した。
自分のペースに男を巻き込むことができて、高橋の笑みは絶えるどころか、顔全体で笑いかけるものになった。
本来ならプロジェクトの真相を謎のままにして去るはずだったのに、それを明かすことで、この後どうなるか――もしかしたらそれすらも、牧野が予測していることかもしれない。
実際それに乗っかる事実は不愉快極まりなかったが、今の自分にとっては最善の策になるので、背の高い男をしっかりと見上げながら話しかけた。
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