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ゲイバーアンビシャスへの再来前日譚16
「部長のアンタを含めた特定の社員数名を、今回のプロジェクトのために各部署から集めた。本社では精鋭チームと呼んで、表向きは称賛していたが」
「…………」
「影では、烏合之衆と呼ばれていたのさ。意味は分かるよな?」
嘲笑いながら告げられる真実を聞いて、男は信じられないものを見る眼差しを高橋に向けた。
「そんな、の。何で、どうしてだ? 難しいプロジェクトを成功させるために、選り抜きを集めたはずだろ?」
「会社にとって、お荷物になる人材を集めただけのことさ。プロジェクトがとん挫するのも、最初から分かっていた。だって低レベルの仕事しかできない、ダメ社員のチームなんだから」
「俺たちがダメ社員……」
街灯の下で見る男の表情が、悲壮感にどんどん満ち溢れていく。眼差しには先ほどまでなかった悲しげな影がよぎり、目の前にいる高橋を見ることなく、突きつけられた現実だけを見据えるようにぼんやりしていた。
「牧野はまったく耳を貸さなかったが、俺としては駄目なりに頑張ってやってくれる可能性はあるだろうと考えて、上層部に一応かけ合ってみた。だが、話の途中で一蹴されてしまった」
絶望の淵にいる男に手を差し伸べるように語りかけつつも、語尾に向かうに従って高橋の感情とリンクすることをわざわざ教えてやった。
「上層部に掛け合っただと? 今回のプロジェクトについて、お前には何のメリットもないのに、どうしてそんなことをしたんだ?」
「そんなの簡単だろ。牧野の思惑が崩れるところを見たいからさ」
男が精神崩壊するであろう、カウントダウンをはじめる。人の心を弄んできた高橋のこれまでの経験が、存分に発揮されようとした。
「お前、いったい何を考えてるんだ。牧野の手によって本社に引き抜かれた、優秀で忠実な社員だったんじゃないのか?」
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