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ゲイバーアンビシャスへの再来前日譚17
「優秀で忠実な社員……。そんなふうに見えるように、装っていただけなのに。だから馬鹿なアンタたちは俺だけじゃなく、会社にも簡単に騙されるんだ」
喉の奥で笑いながら流暢に語られる言葉を、男は黙ったまま息を飲んで聞き入った。
「事実を突きつけられて、ショックで何も喋れなくなったってところか。チームの中でもアンタは上にいて、社員それぞれの仕事の能力を自分の目で実際に確認して、何も思わなかったのがおかしいだろ」
「あ……」
高橋に指摘されて何か思うことがあったのか、後悔に似た表情をみせた。
「広い視野で物事を見つめられないだけじゃなく、社員の能力についても見極められないアンタは終わってる。今後どこに行っても、パシり程度の仕事しかさせてもらえないだろうさ」
「そんな――」
悔しくてたまらないという顔つきの男に、嘲笑とハッキリ分かる歪んだ笑みを浮かべた。
「まぁ馬鹿には、そんな仕事がお似合いか」
くくっと笑った瞬間、高橋に向かって男が音もなく突進する。果物ナイフが肋骨のあたりを貫いたのが分かった。
「おいおい、アンタの力はそれだけか。刃先が皮膚の表面を触ってるだけだぞ。これなら傷害事件にもなりゃしない」
深手を負っているのを隠し、もっと刺せと言わんばかりの挑発を口走ったら、更に力を込めてナイフを突き刺してきた。その力を受け止めるべく、両足でしっかり踏ん張る。
切り傷とは比べ物にならない痛みが、高橋の意識を支配しようとしていた。それに負けないように奥歯を噛みしめてやり過ごし、男の肩をぽんぽん叩いて話しかける。
「ハハッ! 会社への恨みは……、牧野への恨みはそんなものなのか。痛くも痒くもない」
「高橋っ、どうしていつもそうやって、俺をバカにするんだ。お前なんて、お前なんて!」
男の絶叫が辺りに響き渡った。その声に驚いた通行人がギョッとして、自分たちに目を留める。
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