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ゲイバーアンビシャスへの再来前日譚21
「逝っちゃ駄目だ!」
「落ち着け、周防。医者のお前が取り乱してどうするんだ?」
「だって――」
「大丈夫、気を失っただけだと思う。これだけ躰にダメージを受けていたら、とっくの昔に気を失っているはずなんだ。それなのに……」
御堂は話しかけながら、冷たくなっていく患者の衣服を元に戻して、応急処置のために付けていたゴム手袋を外し、自分が着ている上着をかけた。
医者として当たり前のことをした先輩を、周防は尊敬の眼差しで改めて眺める。
学会のために、隣町に来ていただけの自分。持ち物は必要性を感じた資料や、本だけ持ってきた。
学会が終わった打ち上げと称して参加した宴会には何も持たず、手ぶらでここに来たというのに、先輩の御堂はいつも持ち歩いている小ぶりの鞄を、肌身離さず持ち歩いていた。
牛革製のそれはお洒落なデザインだったせいで、医者が日頃使う道具が入っているとは思いもしなかった。今回の応急処置に、それが大活躍したのは言うまでもない。
「俺はいつまでたっても、御堂先輩の足元には及びません。医者としての心構えや大事なことが何も分かっていない、研修医の頃のままだった」
片手で握っていた患者の手を両手で握り直し、自分のあたたかみを分けるように撫で擦ってあげる。
「同じ小児科医でも、俺は救急専門だからな。互いの立場の違いがあるだろうし。でもさ」
「はい……」
「お前が患者に向かって、一生懸命に話しかけていただろ。ギリギリまで意識を保つことができたのは、周防のお蔭だと思う」
(だけど俺が、さっさと応急処置をしていたら――あるいは御堂先輩とふたりで治療をしていたら、間違いなく生存率が上がっただろう。声をかけて励ますなんて、誰にでもできたことなんだ)
「救急車が近づいてきたな。周防、乗り込むだろ?」
「……俺は乗る権利があるのでしょうか」
聞き慣れたサイレンの音が、周防の迷う気持ちに拍車をかけた。
不安に苛まれる瞳を宿した後輩を横目で見るなり、御堂は容赦なく周防の頭をぐちゃぐちゃにする。手荒な宥め方に、肩をすぼめてやり過ごした。
「乗ってもらわなきゃ困るんだな、俺が」
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