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ゲイバーアンビシャスへの再来前日譚22

 おどけた口調で笑いかけた先輩の言葉を聞き、乱された髪の毛をそのままに目をパチパチ瞬かせた。 「ほらほら、アルコールが入ってる俺が説明するよりも、素面のお前が説明したほうが説得力があるだろ」 「さっき救急車を呼ぶのに、電話をしたのは御堂先輩でしたけど」 「周防が病院で説明している間に、夜勤で頑張ってる綺麗なスタッフに、ねぎらいの言葉をかけなきゃならない仕事が待っているんだ」  片手をぎゅっと握りしめながら遠くを見て決意を新たにする御堂に、周防は思いっきり呆れた表情を浮かべた。 「御堂先輩、俺が付き添いをしなきゃいけない理由を、無理やり作らないでください。そういうところがなければ、素直に尊敬できるのに」 「何を言い出すかと思ったら。他の人が寝ている時間に細かな雑用をこなしつつ、患者の世話をしているスタッフをねぎらうのは、医者として当然の行為だろ」 「どうせ、いつものようにナンパする気なんですよね。分かりました、お供いたします!」  がっくりとうな垂れながら了承を口にしたタイミングで、目の前に救急車が横づけされた。  いつもの調子を取り戻した周防と御堂、そして意識を失った高橋を乗せた救急車が近くの病院に向かっていく。  それをぼんやりとした面持ちで、もうひとりの高橋が見つめていた。  辺りは野次馬や警察官がわんさかいて、騒然となっている。歩道には刺されたときの血痕が、大量に残った状態だった。 (もしかして俺は地縛霊として、ここに留まらなきゃならない運命なのか……)  半分に透き通った両手をしげしげと眺めていたら、まばゆい光が高橋を包み込む。あまりの眩しさに、目をぎゅっと閉じた。一瞬だけ躰が浮いた感覚があったけど幽霊になってしまったせいだと考え、薄っすら目を開けてみる。  先ほど感じた光はすでになく、月明かりがほんのりと高橋を照らしていた。 「な、なんだこれは!?」  なぜだか夜空に浮いた状態で突っ立っていて、見渡す限りの無数の星が自分に向かってキラキラ瞬き、足の下には薄い雲が風に流されていた。その隙間から、どこかの都市の明かりが光って見える。  状況が飲み込めないでいる高橋に、下弦の月が囁きかけたのだった。  おしまい ※この続きは【夢で逢えたら】で掲載していきます。 ※【小児科医周防武の最期の恋】(進撃(いや喜劇…いやいや悲劇!?)の学会)で周防の医者としての悩みを掲載していきます。  ここまで閲覧ありがとうございました(*- -)(*_ _)ペコリ

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