8 / 66

捜索6

***  世の中すべてが思い通りにいかないことは、今までの経験上分かっていた。分かってはいたが――。 (どれもこれも自分の手をすり抜けてしまうとは、予想だにしなかった……)  仕事を順調にこなして、定時で会社から出た。その足でコンビニに寄り、夕飯を手にして帰宅。それを食べ終えシャワーを浴びる。いつものようにビール片手に愛用しているデスクに赴き椅子に腰かけ、気だるげにパソコンの電源を入れた。  それが起動する間に今回のことにおける、自分の反省点を見つめ直した。落ち度がどこかになかったか、しっかりと思い出してみる。  メインのサイトで話が盛り上がった相手との逢瀬は、一目見た瞬間にすぐ帰りたくなった。高橋の好みの範疇から、大きく外れていた。会話が適度に盛り上がっただけに、残念と言える。  世界最大級のタイヤ会社のマスコットキャラクターのようなボディで近寄られ、その威圧感にたじろいでしまい、ひとことも言葉が出なかった。 「石川さんっ、はじめまして。中山ですぅ」  自分を見下してくる巨体が、にたぁと不気味に笑いかけてきたので、つられるように愛想笑いしたのだが、思いっきり引きつったのが分かった。 「さっそく、ふたりきりになれる場所に行きましょう。ね?」 「へっ? やっ、あの……」  待ち合わせした、駅前のシンボルになっている銅像前から強引に腕を引かれ、ホテル街に続くであろう道へと誘導されてしまう。 「石川さんってばどんな風に、僕を食べてくれるんでしょうねぇ」 (無理無理無理! 全身ボンレスハムの躰なんて、食べることは絶対にできない。腹を下すに決まってる!!)  高橋は慌てて空いてる手で、ポケットに入っているスマホに触れると、仕事用で使ってるスマホにダイヤルした。 「あっ、会社から電話が入った。ちょっと待っててくれ」  派手なコール音のお蔭で、相手の動きを見事封じることに成功。嬉々としてスマホに出て、小芝居を見せつける。 「もしもし、石川です。はいはい。ええ、ん~それは厄介ですね、分かりました。今から向かいます」  すぐ傍で高橋の話を聞いてる間に、男の顔が不機嫌なものに変わっていった。その様子に一瞬たじろいだが、ビビってる場合じゃない。

ともだちにシェアしよう!