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捜索6
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世の中すべてが思い通りにいかないことは、今までの経験上分かっていた。分かってはいたが――。
(どれもこれも自分の手をすり抜けてしまうとは、予想だにしなかった……)
仕事を順調にこなして、定時で会社から出た。その足でコンビニに寄り、夕飯を手にして帰宅。それを食べ終えシャワーを浴びる。いつものようにビール片手に愛用しているデスクに赴き椅子に腰かけ、気だるげにパソコンの電源を入れた。
それが起動する間に今回のことにおける、自分の反省点を見つめ直した。落ち度がどこかになかったか、しっかりと思い出してみる。
メインのサイトで話が盛り上がった相手との逢瀬は、一目見た瞬間にすぐ帰りたくなった。高橋の好みの範疇から、大きく外れていた。会話が適度に盛り上がっただけに、残念と言える。
世界最大級のタイヤ会社のマスコットキャラクターのようなボディで近寄られ、その威圧感にたじろいでしまい、ひとことも言葉が出なかった。
「石川さんっ、はじめまして。中山ですぅ」
自分を見下してくる巨体が、にたぁと不気味に笑いかけてきたので、つられるように愛想笑いしたのだが、思いっきり引きつったのが分かった。
「さっそく、ふたりきりになれる場所に行きましょう。ね?」
「へっ? やっ、あの……」
待ち合わせした、駅前のシンボルになっている銅像前から強引に腕を引かれ、ホテル街に続くであろう道へと誘導されてしまう。
「石川さんってばどんな風に、僕を食べてくれるんでしょうねぇ」
(無理無理無理! 全身ボンレスハムの躰なんて、食べることは絶対にできない。腹を下すに決まってる!!)
高橋は慌てて空いてる手で、ポケットに入っているスマホに触れると、仕事用で使ってるスマホにダイヤルした。
「あっ、会社から電話が入った。ちょっと待っててくれ」
派手なコール音のお蔭で、相手の動きを見事封じることに成功。嬉々としてスマホに出て、小芝居を見せつける。
「もしもし、石川です。はいはい。ええ、ん~それは厄介ですね、分かりました。今から向かいます」
すぐ傍で高橋の話を聞いてる間に、男の顔が不機嫌なものに変わっていった。その様子に一瞬たじろいだが、ビビってる場合じゃない。
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