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逢瀬2

 じっと見つめてくる眼差しから、慕っているという様子がひしひしと伝わってきた。 「コーヒーが上手い店を知ってるんだ。そこに行こうか」  相手に主導権を握らせないように先に口を開いて、場所の移動を提案した。直接話を聞いてやり、更に親密度を高めた上で深い関係に移行させる。高橋の常とう手段のひとつだった。  仕事の合間に休憩で使っていた喫茶店に赴き、一番奥まった席に向かい合わせで座って、ふたり分のコーヒーを注文する。  その後メッセージに書いていた嘘の経歴を口にする高橋に対し、美麗な青年が信頼しきって、胸の内を次々と明かしていく。そのすっかり騙されている姿に、時折笑みが浮かびそうになる。それを誤魔化すのに苦労していたとき、「トイレに行ってきます」と青年が席を立った。  店の入り口近くにあるトイレに入っていくのをしっかりと確認してから、すかさず目の前の席に腰かけ、彼が持っていた小型のリュックに手を伸ばす。手前にある小さなポケットやあちこちに手を突っ込むうちに、薄くて硬いケースに触れた。  摘まんでそれを取り出してみると、免許証や学生証が収められていた。  自分と同じ出身の大学に通っていることや、住所と本名がそれで判明したのだが――ここに来て3時間近く経っている。彼が胸の内を散々晒しているのにも関わらず、本名を明かしていないことに、はじめて気がついた。  手にしたものを元の戻して、颯爽と自分の席に戻る。  俺様という言葉を使って、付き合う友人を選別している用心深い青年だからこそ、無意識に注意し、あえて本名を明かしていないのかもしれない。 (さて、その警戒心をどうやって崩していくか――)  顎に手を当てて考えている最中に、柔らかく微笑んだ青年が戻ってきて席に着く。高橋が触れたリュックの位置が微妙に変わっていたことに気がつかないのか、目の前にある冷めたコーヒーを口にした。  どこまで警戒されているのかを試してみた工作だったが、そのガードが簡単に崩せることを彼の行動で確証する。

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