14 / 66

逢瀬5

「ここに来て、怖気づいてしまったということか……」  高橋としては、どれくらい緊張しているかを確かめるべく、突然抱きついてみた。包み込んだ腕の中で、青年の体温がみるみるうちに下がり、ほどなくして小さな震えが伝わってきた。  宥めようとして手を出したら、まんまと逃亡されてしまった。青年が逃げ込んだ向かい側にも同じ扉があったので、ため息混じりに開けてみると、こじんまりとしたトイレがあった。シャワーを浴びると言って、高橋の魔の手から上手くすり抜けた、美麗な青年の勘の良さに笑うしかない。  踵を返してバスがある扉の前に立ち、ノックしてやる。  コンコン!  きっと今頃膝を抱えて、躰を震わせながら、ここに来たことを激しく後悔している最中だろう。 「は、はい?」 「ラブホテルの休憩時間は、永遠じゃないよ。さっさとしないとこの扉をぶち破って、はるくんの身体を洗いに行くかもね」 「なるべく早く済ましますっ。すみません!!」  ひどく上擦った声でなされた返事に、どうしようかと思案した。悩んでしまう理由は、上着のポケットに入っている、二種類の薬のせい――。  備え付けの冷蔵庫を開けて、飲み物は何があるのかを確認してみた。お茶にミネラルウォーター、サイダーとオレンジジュースの4種類があり、青年の人柄や今の精神状態を考慮して、サイダーが入ったペットボトルを手に取った。  次の瞬間、耳に聞こえてくるシャワーの水音だけで、高橋の下半身が熱を持つ。バスの扉を壊して中に入り、手を出したくなる気持ちを抑えるべく、テーブルの前にある椅子に腰かける。別なことを考え、卑猥な気持ちを取り除くべく、目の前に集中した。  黙っていても、青年の躰を弄ぶことができるんだから――。

ともだちにシェアしよう!