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逢瀬14
元々の感度がいいんだろう。狙い通りのいい玩具が手に入ったことに、高橋としては酔いしれていたかった。しかし現実は、そこまでうまくはいかなかったのである。
「コチラとしても、全力でお仕事を手掛けさせていただきますよ。勿論、提示された額でやらせていただきます」
バカな上司の言葉に俺をはじめとして、部下全員が困惑の表情をありありと示したというのに、それを完全に無視して、クライアント側の要求で仕事を押し進められてしまった。
「橘さん、ちょっと待ってください。先に藤田鋼業の仕事を手掛けなければならないので、その納期では、どう考えても無理なんですが」
クライアントの顔色を窺って、厄介な仕事をしようとした上司の動きを止めるべく、高橋が口を挟んだ。かなりタイトな状態で仕事をしている手前、口を挟まざるおえなかったのである。
(しかも、こちら側が提示した額より安価すぎる仕事を、誰が喜んでやるっていうんだ)
そんな心情を悟られないように、声を押し殺したというのに、そんなの知ったこっちゃないという感じで、上司がため息をついた。
「死ぬ気でやればできるだろ。ちっぽけな仕事を頼む藤田鋼業よりも、ご新規様を優先させなくてどうするんだ」
(コイツ、大口取引先をちっぽなんて言うところをみると、仕事の内容を全然見てはいないな)
突如現れた仕事のできない上司のせいで、青年との逢瀬の時間がなくなってしまった。お蔭で毎晩、残業の日々である。
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