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逢瀬23

「これは夢だと思えばいい」 「えっ?」  告げられた言葉に、青年は腰の動きを止めて、まじまじと高橋の顔を見つめた。 「はるくんは俺とこういうことをするのが、嫌で堪らないだろ。義務的な感じで行為をしてもそれが俺に伝わって、全然感じないんだ。だからいっそのこと、これは夢だと思えば少しは気が楽になると思ってね」 「夢だと思う――?」  何てむちゃぶりなことを言い出すんだろうという感情が、自分を見つめる眼差しから伝わってきた。眉根を寄せながら目を見開き、愕然とした面持ちの青年に、高橋はなぜだか二の句を継げることができなかった。 (どうしてあのとき、あんなことを言ってしまったんだろう。いつもなら彼を徹底的に辱めた上に貶めて、楽しむ場面だったはず――) 「牧野さん、本社からわざわざいらしたんですか?」  同僚があげた歓喜の声で、高橋の考えていたことがプツンと中断された。 「やあ! 僕が去ってから、随分と部署の雰囲気が変わってしまったね。みんなが頑張っていることは、本社でも話に聞いているよ」  皆を労うような柔らかい声が響くと、疲弊していた同僚たちの顔が、安堵に満ちたものに変わっていった。  数か月前まで、元上司だった男に興味がなかった高橋は、目の前にあるパソコンの画面に視線を釘付けにする。青年に逢う時間を、何とかして作ろうと考えた。  残業中だというのにこうして思い出してしまうなんて、相当溜まっているなと僅かな微苦笑を自嘲的に口角に浮かべた瞬間、肩を強く叩かれる衝撃に、躰を竦めるしかない。 「僕が高橋くんをサブチーフに抜擢したというのに、随分と冷たい態度をとってくれるじゃないか。本社に行った人間には、もう興味がないっていうこと?」  背後からにゅっと顔を覗き込まれて、高橋は顎を引きながら距離をとった。心情を悟られてしまったことに驚きを隠せず、いつものポーカーフェイスを作れなかった。 「すみません、今日中に終わらせなければいけない仕事がありまして」 「悪いがそれを一時中断して、隣にある第一会議室に一緒に来てくれ」  近づけられた顔が、意味深な微笑で高橋に笑いかけるなり、すっと離れていく。こんな過度な感じのスキンシップをする男じゃなかっただけに、どうにも違和感が拭えなかった。

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