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逢瀬24
人はいい印象よりも、悪い印象のほうが記憶に残る――そういう経験をもとにして、常に神経をとがらせて、最悪の事態が起こったときを想定し、対処できるように心の準備をする。
そんな自己防衛本能で、どんなショックなことが起きても、予防線を張っておけば大丈夫だと自分に言い聞かせながら、牧野と一緒に第一会議室に向かった。
「単刀直入に言おう。高橋くん、君を迎えに来た」
会議室の扉を閉めたと同時に、告げられた言葉で、疑問符が頭の中に浮かんだ。
「……迎えに来た、とは?」
「今の部署は近いうちに、クラッシャーの手によって壊される予定だ。会社の予算の関係でね、売り上げのないところを潰しているんだよ。その前に、君を助けに来たというわけ」
オウム返しをした高橋に、牧野は背を向けたまま、どこか楽しげに会社のことを語っていく。
「クラッシャーって、もしかして橘さんのことでしょうか?」
「そうだよ。仕事ができない人間にうってつけのいい仕事を、会社側はさせているよね」
(予算削減のためだけに、あんなバカ上司にこき使われていたなんて――)
「本社での君の地位は、きちんと確保してある。僕の部下という形になっちゃうんだけど、サブチーフっていう中途半端な肩書じゃない。これって、そんなに悪くない話だろ?」
「俺だけ、本社に異動なんでしょうか?」
「仕事のできる高橋くんを優遇するのは、当然のことだと思う。何か問題でもある?」
自分を目にかけてくれる牧野の采配は嬉しいが、バカ上司とやり合うために一緒に頑張った同僚に対して、後ろめたい気持ちもあった。
「高橋くんは誠実で、とても優しい人柄だからね。苦労を分かち合った仲間と、離れがたいと考えたんだ」
高橋よりも大柄な背中が音もなく動き、しっかりと正面に向き合う。自分を見下ろしてくる、柔和な笑みの形を表す瞳と目が合った。
「ねぇ知ってる? 新田くんのこと」
いきなりなされた質問に、高橋の眉間に深い溝が刻まれる。
「何のことでしょうか?」
新田とは、先ほど高橋に栄養ドリンクを差し入れしてくれた、入社2年目の部下のことだった。彼を含めて同僚のプライベートについては、世間話からの情報のみだったので、正直なところよく分かっていない。
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