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逢瀬25
「彼と一番仲のいい同僚って、誰だっけ?」
「新田よりも、3年先輩の立川ですけど……。彼が新人だった新田の面倒を見た関係で、プライベートでも交流があるのを、小耳に挟んだことがあります」
「新田くんが立川くんの奥さんを相手に、不倫している話は知ってる?」
「ま、さか。そんな――」
いきなり突きつけられた衝撃的な内容に、高橋の喉が瞬く間に干上がり、掠れた声で返事をしてしまった。
「クラッシャーのせいで、散々振り回されているところに、この話題を提供したら、この部署はどうなるかな」
気の利く新人と中堅を潰されたら、それこそ仕事が回らなくなってしまうことが、容易に想像ついた。不倫話を使って、自分を縛りつけようとする元上司に、意を決して口を開く。
「部下の不祥事を俺に暴露したということは、その件について目をつぶってやるから、黙って本社に来いという命令でしょうか」
「君、意外と思慮が浅いね。僕がこの情報を握っているということが、実はヒントなんだけどな」
見るからに傲慢な面構えをする、牧野の様子を目の当たりにして、嫌な予感が胸の中を支配していく。じわじわと高橋の躰を不安が囲みはじめ、動くことができなかった。
告げられた言葉の意味を吟味する余裕もなく、ただその場に立ちすくむ。
「さて問題。これは何でしょうか?」
言いながら牧野はスーツの胸ポケットから写真を2枚取り出し、高橋に見えるように目の前に差し出す。
「くっ!」
反論するセリフが、頭の中で流れているというのに、何か言おうとしても舌が上顎にくっ付いたみたいで、まったく声が出なかった。突きつけられた写真から目を逸らしたいのに、それすらもできずに膝ががくがく震えはじめる。
青年を見上げながら、何かを話しかける高橋の姿と、ホテルと思しき建物の中へ並んで入って行くところが撮し出されていた。
「新田くんといい高橋くんといい、表向きはそんなことをしそうじゃないのに、そろって他人に糾弾されることに興じているとはね」
「なっ何のことでしょうか。知り合いとただ……一緒に歩いてる、だけの写真、ですよね」
吐息を漏らしながら、やっと言葉を口にする。冷たい汗が、全身からにじみ出るのを感じた。
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