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逢瀬26

 あからさまに動揺している高橋を見ながら、牧野は持っている写真を見せびらかすように、ぴらぴら動かした。 「この写真だけじゃ、証拠にならないと言っているのか。へえ……」 「本当に彼は知り合いです。そんな写真を撮られる、意味が分かりません」  焦りながらも、多少の落ち着きを取り戻した高橋は、演技じみた動きで肩を竦めた。ポーカーフェイスで取り繕えない牧野とのやり取りに、見えない恐怖をひしひしと肌で感じ続ける。 「同性同士だと、そういう言い逃れができちゃうんだから、カモフラージュするには、うってつけの相手ということだろうけど。それを想定した上で、僕が次の手を打っていたらどうする?」 「想定……」  仕事でもまったくミスせずに、部署の成績を上げていた牧野の手腕を思い出し、どんなものを用意しているかを考えただけで、頭痛がしてきた。 「ラブホに盗聴器を仕掛ける、一部のマニアがいることを知っているか?」 「まさか――」 「僕が自分の手で、高橋くんの持ち物に盗聴器を仕掛けるという苦労を、わざわざしなくて済むんだ。だけどここからが難題でね、君がいる部屋に仕掛けられた盗聴器の周波数を合わせるのが、結構大変なんだよ」 (牧野がいる本社とここは、距離がかなり離れている。部下一人の行動を見張るのに、プロを雇ったんだろう) 「ご自分の手を汚さず、俺をストーカーしていたというのに、その言い草の意図は何でしょうね?」 「あ、バレちゃった。さすがは高橋くん、僕に脅されている立場なのに、強気でいられるその態度は、普段から脅し慣れているせいか?」  悪びれる素振りをまったく見せずに、微笑み続ける牧野を、高橋は黙ったまま睨みつけた。 「ふーん、なるほどね。職場で見せる人の良さそうな姿の裏側は、そういう顔をしているということなんだ。君、随分と相手の若い男をいたぶっているよな。止めてくれって言ってるのに、笑いながら相当酷いプレイを楽しんでいるみたいだし」  怒りで口を噤んでいる部下を見下ろしながら、流暢に告げられる言葉の内容を、高橋は感情を押し殺して冷静に吟味する。  これがネットなら、送られてきた文章を時間をかけて何度も読み解き、相手の心の内を解剖できていた。

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