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逢瀬27

 しかしながら今の現状は、自分よりも頭の切れる牧野に弱みを握られ、じわじわと押されている状態。これを打破するには、それに匹敵するような何かを、高橋自身が所持していないと勝算はなかった。 「今の高橋くんは、まるで亀みたいだね。僕に対して、手も足も出ないだろ」 「亀なんていう動物に例えられるとは、思いもしませんでした。言うなれば蛇に睨まれた蛙のほうが、俺には似合いじゃないですか」  この場の雰囲気を上手く表現できたことに、高橋は笑ってみせた。作り笑いのせいか、引きつった笑みになったのを、頬の緊張具合で悟ってしまう。  いつもは追い込む側にいたせいで、自分の心情を隠せないことに焦りを覚えた。 「蛙は、そんな怖い顔をしないだろ。だったらそうだな、噛みついたら離れないスッポンなんてどうだろう? 性行為を強要している若い男に、そのしつこさをぶつけているみたいだし」 「……部下の弱みを握った今のご気分は、さぞかしいいものなんでしょうね」  変な切り返しをしてくる牧野に辟易して、本音がするりと口から飛び出た。 「逆の立場に立ってはじめて、自分の弱さを知るものさ。ネットでは狡猾だった高橋くんは、リアルでは残念なくらいに抜けていただけだろ?」 「そんなつもりは、まったくありませんでした」  住んでいる場所を知られないように、違うところで相手と逢っていただけじゃなく、偽名を使用した。プライベートを明かさないように慎重に話を進めながら、向こうのプライベートを上手く聞き出していた。  慎重に慎重を重ねていたというのに、牧野にこうして脅されているなんて、思いもしなかった。足元をすくわれた気分に陥った感じと、表現すべきだろうか――。

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