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別離

 転勤のことを隠していてもしょうがないので次の日、自分に身近な同僚を会議室に数人集めて、いなくなることを言い伝えた。  それと同時に、クラッシャー橘についての対策も一緒に考える。  置き土産になるかは分からないが、引き継ぎのみで立ち去るよりマシだと、自分に暗示をかけながら、本社に行く日までを過ごしていた。  そんな慌ただしい毎日の隙間に、やっと青年と逢う約束を取りつけた。地元から旅立つ2日前のことだった。  待ち合わせ場所は、青年が住んでいる駅の傍にある、某ファーストフード店にした。夕飯の時間帯だったのもあり、店内が込んでいたのか、彼は店の前に佇んでいた。  やって来る高橋を見つけた途端に、青年はやるせなさそうな表情になる。あからさまに暗く沈んだ気分を、少しでもいいから浮上させたくて、笑顔で話しかけた。 「待たせて悪いね。一緒についてきてほしい場所があるんだ」  楽しげに話しかけた高橋を、青年はちらりと一瞥するなり、仕方なさそうに駆け寄った。歩き出したあとを追うように、ちょっとだけ後方を歩きはじめる。 (肌に感じるうんざりしたこの感じは、牧野に脅されたときの俺と同じか――)  そんなことを考えながら、繁華街に向かった。 「あの、土地勘があるんですか?」  いつもと違う場所を、迷いなく進んでいく高橋に、青年は疑問に思ったことを口にした。 「そうだね。はるくんと同じ大学に通っていたって言ったら、納得してくれる?」 「……同じ大学に通っていたんですか?」  前を向いたまま答えた背中に、ふたたび質問を投げかける。 「ちなみに、いつも待ち合わせで使っていたあの場所は、高校まで住んでいたところなんだよ。今現在、住んでいる場所はナイショ」  青年から訊ねられた質問について、高橋は素直に答えた。  そんな自分の返答を聞き、どんな顔をしているのかを知りたくて振り返ると、猜疑心を含んだ眼差しと視線がかち合う。普段から青年に嘘ばかりついているせいで、信頼されないのは当然のことだと頭で割り切りながら、笑顔を絶やさずに話しかけた。 「ふっ、そんな不安そうな顔をしないでくれ。罪滅ぼしに、いいところに連れて行ってあげるから」 「…………」 「大丈夫だって。今日を最後に、俺たちの関係はお終いなんだ。離れた場所に、転勤が決まってしまってね」

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