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別離3

「俺たちが出逢ったきっかけ、覚えているかい?」  小さな咳払いの後になされた話題転換に、青年は視線を前に見据える。それに倣うように、高橋も目の前にある通りを、じっと見つめた。  道の両側に、飲み屋の派手な看板やネオンがきらきらと瞬いていた。だがふたりが見つめる先にある一本道は街灯がなく、真っ暗闇に包まれていて、そこに何があるか分からない状態だった。 (きっとこの道は本社に勤務してからの、俺の生末そのものなんだろうな――)  お先真っ暗な、自分の人生を想像していた高橋に、青年は消え入りそうな声で語りかける。 「高校の卒業式で、告白した話をしましたよね」  そのセリフで、長文で書かれたネットでのやり取りを、ぼんやりと思い出した。青年とのやり取りをきっかけに、他の男たちと交わしたコメントも、なぜだか頭の中に流れていく。そのどれもが、自身の恋に悩んだものだった。 「俺さ恋って、簡単にできるものだと思っていたんだ。はるくんと違って俺は、両方を愛することができるから。これって、人の倍は恋することができるだろ?」 「そうですね……」 「それなのに、人を好きになるっていう感情がないせいで、恋する意味が分からないんだ」 「えっ!?」  高橋の言葉に驚いたのか、青年の足がぴたりと止まった。それでも数歩先に進んだ高橋は、立ち止まった青年に向かって振り返り、優しげに微笑んだ。 (見慣れない俺を見て、はるくんは何を考えているんだろう? 面食らってぽかんとしてる顔、結構可愛いじゃないか) 「俺がこんな話をするのが珍しい?」 「……はい。意味が分からなくて、返事に困ってしまうくらいに驚きました」 「ははっ。俺もよく分からないからな。狙った相手を落としてヤることヤっちゃえば、好きになれると思ったのに、現実はそう甘くなくてね」  浮かべた微笑みを絶やさずに、肩をひょいと竦めるなり歩き出すと、青年は止めていた足を急いで動かし、隣に並んできた。 「好きって何だろうな……」  自分の中にある疑問が、囁きみたいに漏れ出た。とても小さな声だったのに青年はそれに反応して、高橋の顔を穴が開きそうな勢いでじっと見つめる。

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