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別離4
青年からの食い入るような視線を感じていたが、スルーしてそのまま歩き続けると、不意に彼が口を開いた。
「その人の存在を感じたり、ふと目が合ったときに胸が高鳴るとか」
「…………」
たどたどしく語っていく言葉を聞いて、高橋は驚きのあまり、自分よりも少しだけ上にある顔を何も言わずに眺めた。
「他にも同じものを共感して笑ったところを見るだけで、幸せを感じたりして、そんな顔をずっと傍で見ていたいなぁと思ったり……」
すると青年は高橋と目が合うなり俯き、それでも好きという想いについて、熱心に教えてくれる。ひたむきなその姿に、胸がどんどん熱くなっていった。
「え、えっとその、抽象的すぎて分かりにくいですよね。他の表現が思いつかなくて」
「いいや。はるくんの好きは何だか、あったかい感じがする。相手を包み込むような優しさがあるね。そんなイメージだよ」
「ありがとうございます……」
青年の持つ、好きという気持ちや優しさに全身で包まれたいと思ったら、躰が勝手に動いて、自分よりも大柄な躰をぎゅっと抱きすくめてしまった。
「え――!?」
大勢の人が行き交う繁華街の道のど真ん中だったが、そんなことにはまったく気にならなかった。別れたくない思いと一緒に、これまで酷いことをした、自分の悪事を後悔する気持ちがない混ぜになって、高橋の中で渦巻いていく。
「あ、あの石川さん。大丈夫ですか?」
青年は高橋を介抱するように見せかける言葉をかけながら、上着の背中をぐいぐい引っ張ったが、腕の力をさらに強めて、離れられないようにした。
「……はるくんのドキドキ、体に感じるよ」
「そんなの感じられても、人目がですね」
「俺はね、全然ドキドキしていないんだ。むしろ、しくしくと痛んでる」
呆然と立ち尽くす青年に見えるように、高橋は顔を上げて、悲しげな笑みを浮かべた。
「優しくてあったかい、はるくんに酷いことをしたというのに、好きの意味が分からない俺に理解させようと、必死になって考えてくれたよな」
「あ、はい」
「なんて可哀想な人なんだと、同情心から教えてくれたんだろう?」
(最後の最後まで、俺は君に優しくできない、悪い男だ。こんなことを言ったら素直なはるくんは、それを認める発言をするだろうに――)
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